第102話 ーー秋旅行ーー
「そんでこの日にここ行ってこうして…」
何やらケルトさんが机の上で何かしている様子。僕は気になって覗き込む。
「何やってるんですか?」
「おう、旅行の計画だ。旅館とかは取ってあるから何するかを…」
「旅行ですか!?毎回毎回言ってますけど急すぎるんですよ!」
「話は最後まで聞け…旅行は明後日からだから準備も問題ないだろ?前は当日に言って悪かったって思ってんだよ」
「むぅ…」
明後日だとしても急な話だ。この人が自分を中心に動いてるのは毎度のことだから今更驚きたくない。そんなことで旅行に行く事をナビに話す。
「良いじゃない!秋といえば紅葉も綺麗だし過ごしやすいから格別じゃない!」
「そうだけど…僕ってインドア派だからな〜」
「ちゃんと外出て運動しなきゃダメよ。早く準備済ませちゃいなさい。私は何も要らないけど」
ナビは楽しみにしてる様子だ。空中をヒラヒラ飛んでいて嬉しそう。服とか本とかをバッグに詰めて準備は完了。そろそろケルトさんの計画とやらも終わったかと思いリビングに戻る。
「ケルトさん、終わりましたか?」
「丁度良いタイミングだな。今終わった所だ。ざっと1週間で7泊8日だ」
「随分長いですね…別の世界に行くんですか?」
「まぁな。基本はローディアだが、季節が被ってて景色の良い世界を知ってる。そこで軽く山登りだ」
計画書は丁寧に書かれていて分かりやすい。時間配分とかは書いてないからそこは適当なんだろう。一緒に見ていたナビが何か言いたげに僕の部屋に戻る。
「あの美術館…」
「美術館がどうかしたの?芸術の秋だからってことで行くらしいけど」
「覚えてる?絵画の住人『ピカソ』のこと」
目取りの殺人鬼の協力者。忘れもしない。
「それがどうかしたの?絵画の住人だからいるって事?」
「多分ね。あいつの作品が飾られてるの。あいつは自分の絵の中を自由に行き来出来る。もしかしたら衝突するかも…」
絵の中を行き来…殺人鬼を逃すのに使えるってわけか。面倒な戦いになりそうだ。
「その時はその時。何よりケルトさん達が居るから問題ないよ」
「そうだと良いけどね…」
不安がってるナビを宥める。僕が勝てなくてもケルトさん達が居ればきっとどうにかなる。今までだってそうだった。
そうこうしてる内にもう旅行日当日だ。
【秋旅行編 始】
「早くしろよ〜」
「ま、待って下さい〜」
「全く、準備は出来ておらんかったのか?」
「出来てたけど気になっちゃって…」
これから1週間、僕は知らない所で過ごすことになる。少し寂しい。ちなみに家はバクの仲間が監視してくれるらしい。
「どうやって行くんですか?まさかまた…」
「流石に飛んではいかねーよ。電車だ」
ケルトさんの背中に乗って行くのかと思ってたから少しホッとした。何よりそれだとナビが付いて来れなくなっちゃうし。僕らは駅に着いて電車に乗った。この電車は初めてだ。
(電車に乗るとあの時のこと思い出しちゃうな〜)
「あの時は大変だったな。お前も怖かっただろうがよく頑張った」
「トラさん達が来てくれたおかげですよ。みんなのお陰でなんとか止められたんです」
「後で話がある……そこのやつも一緒だ」
耳元で囁かれた。そこのやつって言うのはナビのことだろう。僕らの話を聞いていたナビも話す気満々だ。しばらくして電車は山の中を走る。まだ少し早かったのか紅葉は所々にしかない。そんな景色を眺めていたら目的の駅に着いた。
「すまん。イリウスがトイレに行きたいらしくてな」
「ん?そんなら俺が連れて…」
「俺が連れてくから待ってろ。行くぞ」
「え?は、はい」
さっきの話か。すっかり忘れていた。ナビも連れてトイレの方までやってきた。山だからか人は居ない。
「それで話なんだが…その光の玉は何なんだ?祓わなくていいとは言ったが正体が気になるぞ」
「えっと…この子は妖精らしいです。僕的には霊だと思うんですが」
「それで何の用でお前に憑いてるんだ?」
「それは…」
「言っちゃダメよ。知られると止められるわ。成仏を手伝ってほしいとかにしておいてちょうだい」
トラさんに声までは聞こえてないのかナビの声には無反応だ。
「成仏したいらしくって、そのお手伝いを。優しそうだったからって僕を選んだみたいです」
「…そうか。悪霊ではないし害も特に無さそうだが…もし声が聞こえるとか、指示されるとかあったらすぐ言うんだぞ。騙されてる確率が高い」
(全部当てはまってる〜)
「ちょっと!勝手言わないでよ!あなた達が過保護なだけじゃない!イリウスだってちゃんと戦えるんだからね!」
どっちの言い分も分かる。トラさんの心配する気持ちも、僕のモヤモヤを晴らしたい気持ちも。
そんなこんなで話も終わり山登り開始だ。ただ最初の勢いと違い…
「ほらほらペース落ちてきてんぞ?」
「はぁはぁ…この山結構急です…」
駅は既に山の中だったので何となく予想していたがまさか歩いて行くことになるとは…いくら綺麗とはいえ30分も山を登っていれば疲れる。
「後どのくらいで着くんですか?」
「そうだな〜。一回登ってまた降らなきゃいけねーから…1時間くらいか?降りなら早いだろ。あ、でも山頂で昼飯食うぞ」
とりあえず登るしかない。でも流石に限界だったから飛んだ。神力を使うと楽で良い。
「おいおい、お前は俺らと違って寝ることでしか回復出来ねーんだからな?」
「わかってますよ〜」
それでも僕の神力量は多い。登りきってもケルトさん達より多いだろう。そのまま詰まらずに山頂に着く。所々崖とかあったが全部ジャンプで飛び越えていた。
「山頂ってこんな感じなんですね!景色が良いです〜」
足元には程よく草が生えていて木という木はない。だいぶ高い山なのかほぼ全部の山が見える。
「ほんと凄いわね!私こんな山登ったの初めてよ!」
「イリウス飯食うぞー」
広がったレジャーシートにはサンドイッチや唐揚げなど弁当の定番が並んでいた。どれもこれも美味しそう。
「いただきまーす!」
運動した後なのもあって勢い付けて食べた。まだ降らなきゃいけないから腹八分目にしておこうと思ってたがお腹いっぱいだ。
「ん、ここからなら旅館が見えるぞ!」
ケルトさんに言われて見てみると、絶壁の上に建っている旅館を発見。下には川が流れていて滝も見える。あそこからの景色は最高だろうな〜。トラさんは早々と皿や箱を片付けてハコニワに入れた。みんな荷物を持った所で出発だ。
「うわぁ…」
普通に降るだけだと思っていた僕は絶句した。なんと崖まみれ。ロッククライミングでもするんじゃないかと思うくらいの壁を降らなきゃいけない。これを神力使わないで行くなんて化け物か?と思っていたら、
「ったく、怖いのは分かるが早く降りてこいよ」
そう言うと3人とも落ちて行った。ケルトさんとトラさんはドゴンと大きな音を立てて地面にヒビを入れていた。バクは地面に着く瞬間神力を使って優しく降りた。
「本当に化け物なのね…特にあの2人は」
「そうだよ。多分落下で死ぬことないんじゃないかな」
僕はゆっくりと神力を使って降りる。下もゴツゴツしてるし早く降りすぎたら足を挫くかもしれない。そんなこんなで僕らは旅館に着くことが出来た。
「さっすが高級旅館だな。入り口から豪華だ」
既にドアは開いていてご自由に状態だった。ノレンを潜って中に入ると、
「いらっしゃいませ。今夜はどうぞゆっくりお休み下さい」
女将さんらしき人が正座で待っていた。ケルトさん達が軽く手続きしている間に、僕は飾ってある絵とかを見ていた。
「イリウス!あれ!あの絵!」
ナビに言われるまま飾ってある絵を見る。色使いが独特だが何かの景色だろうか。本当に独創的な絵だ。空の色が赤だったり紫だったり…変な枠がいっぱいで不思議な絵。もしかしてこれが…
「そう、絵画の住人『ピカソ』の絵よ。でもこの絵は安心して。人が描かれていない。人が描かれていない絵には行き来出来ないわ」
「どうしてそこまで知ってるの?簡単に知れる情報とは思えないけど」
「……私だって頑張ってきたもの。あいつらを暴く為に何年も何年も…」
ナビの情熱に負けるわけにはいかない。ピカソとやらの絵の特徴は分かった。それでも大きな第一歩だ。
ーーーーーーーーーー次回予告ーーーーーーーーー
「じ、事件です!!」
突如として響く叫び声。ある1人の客は男湯にて死んでしまっていた…手がかりは何一つない、目撃者やその時の情報からイリウスは犯人を突き止めることは出来るのか?
イリウス…色々巻き込まれてほんと大変そうね…
次回「ーー殺人事件ーー」
ちょっとでも先が気になる!おもしろい!と思いましたらブクマ、感想などしてもらうとモチベになりますm(__)m