第99話 ーー目ーー
「スーハー。良い天気だけど匂いはそこまでね。ゴミがたくさん落ちてるわ」
前回初めてナビと出会って手を結んだ。ナビは僕に力を貸すって言ってたけど具体的に何をするのか、それを確かめようと思って外に出た次第だ。
「ところで急に散歩なんてどうしたの?何かあった?」
「ううん。普通に散歩したかっただけ」
こんな時に限って襲われない。みんないつもならすぐ襲ってくるのに。あえて右手を見せびらかしてるけど一向に誰も見ようとしない。
(必要な時に来ないんだから…)
「あー!あれ見てあれ!」
「な、何!何!」
ナビが大声を上げるから周りをパッパと見回したが特に不思議なものはない。ナビはヒラヒラと飛んである人の上に留まる。
「この帽子、ブランド物なのよ!」
「そ、そんだけ…」
「そうだけど?」
僕はガクッと体勢を崩す。とにかく今は敵を探さないとと歩く。それでも一向に現れる気配がないから路地裏に出向こうと思った。
「何でこんな薄暗い所に?散歩だったら明るい所の方が良いわよ〜」
「こっちが近道なの。薄暗いけど仕方ないよ」
狭くも戦うには丁度良い幅の路地裏。既に後ろから気配がする。
「よぉ、ちょっと良いか?」
案の定話しかけにきた。通行方向も帰り道も先回りされ逃げ道がない状態。確定だ。
「良くないです。お散歩で忙しいので、じゃ」
「じゃ、とはいかねーんだな。そのレベル寄越せよ。見せつけやがって。渡す気がねーんならぶっ殺すしかねーな」
坊主の人間のおじさんは僕の胸ぐらを掴んで持ち上げる。服が伸びるからやめて欲しい。ナビの方を見るが慌てている様子だ。
「なるほど。じゃあとりあえず…」
まずはテレポートで地に足をつける。相手は5人、まぁまぁだな。
「倒す所からですね」
相手は全員で一斉に攻撃してくる。剣が飛んできたり殴りかかってきたり無茶苦茶だ。でもこの人達は素人だったみたい。今までの能力者とは比べ物にならないくらい弱い。
「ナビ、援護をお願いしたいんだけど…」
「ちょっと!私が出来るのは索敵とかだけ!」
「え!?そうなの?でも力を貸すって…」
「そうね、例えばあなたの後ろを見るとか!あなたの目になってあげるって意味!」
「そういうことだったの?じゃあ1対1とかには使えないじゃん…」
がっかりしながら決着をつける。ビームで軽く足を火傷させたら逃げていった。とりあえず目標は達成だ。それにしても…
「妖精なのに全然何も出来ないじゃん…」
「よ、妖精なのは関係ないわよ!」
目になる、か。確かに後ろの情報を正確に伝えてもらえれば被弾率は下がる。全く役に立たないわけじゃなさそうだ。とりあえず帰ろう。そう思っていた時だった。
「見てたぞ〜しっかり。良い能力者だね」
「またですか?何人来れば気が済むんですか…まぁあなた1人みたいなので良いですけど」
「ん?俺は1人じゃないけど?」
上からドスドスと人が降ってくる。全員武器を持っていて今にも襲いかかる勢いだ。上を見上げるとそれだけじゃない。見える影だけで30人くらいいる。
「いくらなんでも多すぎでしょ!」
「備えあれば憂いなし。こんだけ仲間集めるのにも苦労したんだよ。能力者じゃないやつもいるけどね」
(流石にまずいかも…)
そんなことを思っていると急に襲いかかってきた。
「急すぎますよ!こういうのはスタートの合図とか…あぶな!」
「ふふふ。避けられた。ふふふ」
上からもビームのような攻撃。そっちに集中すれば剣とかの武器にやられる。何とかビームでどうにか出来ないかと思ったが神器を使ってる人はそれを防ぐ。少なくともさっきの人達より強い。
「後ろから来るわ!」
「!!!」
ナビの声が聞こえた瞬間横に移動したら後ろから振り下ろされた剣が地面に当たる。
(気付かなかった…避けてなかったら僕…)
そんか事を思ってると僕の目の前にもう1人上から降りてくる。ドスっと力強い着地音から死を覚悟したが、その顔は僕がよく知る人のものだった。
「イリウス!遅いから心配したぞ!良いから帰ってろ」
「え、いや、何でケルトさんが?って言うか帰れませんよ!」
「ちょ、後ろ来てるわよ!」
「ケルトさんうし…」
ケルトさんの後ろから振り下ろされそうになった剣。刃先を摘まれている。僕の方を向きながら、正確な位置も分からないはずなのに、
「ほら、帰ってろ。こいつらは殺…話しておくから」
「…わかりました」
「ちょっとちょっと逃したくないんだけど」
周りの人は出口を人で塞ぐ。普通に行ったら出られないだろう。
「じゃあお任せしておきます」
「え?行くの?」
僕はテレポートでピュンと移動する。あっちからしたら突然消えたのと変わらないから困惑してるだろう。困惑する時間が残っているなら。
「ちょっと急にテレポート使わないでよ!どこに居るか分からないじゃない!って言うか置いてって良かったの?いくら強いからってあの量は…」
「大丈夫だよ。あの人より強い人居ないし。僕が100人居ても、あの人には勝てない。気になるなら戻ってみれば?もう終わってると思うよ」
ナビは納得出来ないのかすぐさま戻っていった。ナビが見る景色は何となく予想が出来る。大量の返り血を浴びたケルトさんと死体の山だろう。
「何よ…これ…」
「ふー。数が多いだけっつーのも血が付いて厄介だな。さっさと帰って風呂入ろ」
しばらくしたらナビが家に帰ってきた。僕の部屋に入ってもいつもの元気は見られない。
「何かあった?ケルトさんはさっき帰ってきたけど」
「…2人目よ。あんなに殺しに無関心な人。当たり前のように殺してた」
「そうだよ。ケルトさんはそういう人」
「…それで良いの?あなたと同じように大切に思ってくれてる人がいるかもしれないのよ?いくら悪人だからって…」
「『殺して良いのは殺される覚悟のあるやつだけだ』ってよく聞くじゃん。確かに簡単に殺しちゃうのはダメだと思う。他の解決法もあるから。でもケルトさんはそれが効かない人を知ってる。だから殺してる。もし改心させれると思ったんなら殺しはしないし」
「…そうなの…かしらね。いつか悪霊を産むわよ…」
「もし悪霊が産まれてたらいっぱいいると思うけどね。ローディアでは殺しが当たり前。いちいち霊になるよりも、来世に行って神になった方がお得な気がするけどね」
「よくそんなに明るく居られるわね?言ってることだいぶよ?」
「慣れちゃったからね。慣れたくなかったけど。僕は殺しはしないって決めてる。ケルトさんは僕に手を出すやつは殺すって決めてる。お互いの正義なんだよ」
何とかナビを納得させた。ナビは僕らのこと観察してたって言ってたけどケルトさんのことそこまで知らなかったのかな。ナビのおかげで後ろの様子を確認出来ることが分かったからそれだけで今日は満足だ。
ーーーーーーーーーー次回予告ーーーーーーーーー
「今日は月が綺麗です」
秋といえばの醍醐味でもあるお月見。丸く大きな月には秘密がたくさんで目を離せない。ケルトの作ったお団子と合わせて最高の夜を過ごす。
たまにはゆっくり過ごすのも良いの。頼むから何も起きないでくれ。
次回「ーー月見ーー」
ちょっとでも先が気になる!おもしろい!と思いましたらブクマ、感想などしてもらうとモチベになりますm(__)m