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機械仕掛けのリフレイン  作者: リリー
リフレイン
3/14

三ツ星の粉

「リフレイン。おーい。いないのか。」


 学校から帰るといつもの存在がなかった。リフレインは週に一日いなくなる。いつもその日は突然で何日とか何曜日とかは一切わからない。


 だが、心配することはない。飼い猫みたいに大体、ちゃんと帰ってくる。どこに行ったかというと、それはロボットの集会みたいなもので、人型ロボットに参加が義務付けられているらしく、それが今日だったということになる。


 集会の詳細については黙秘を貫いている。守秘義務があるとのことだ。別に人に対して何か企てているわけではないとは言っていた。それが本当かどうかは分からない。


 そういうわけでとても静かだ。たった一日彼女がいないだけでこんなにも寂しく感じるとは思わなかった。暇だ。


「げ。リーちゃんいないの。はぁ。」


 もう一人暇人がやってきた。勝手に家の中に入ってきたようだ。入るやいなや、溜息を吐いたこの女は俺と同じ歳で同じ学校だが、どちらかというと俺の友達というよりリフレインの友達だ。集会でできたロボットの友達がいるかは分からないが、学校の生徒の中で俺の知る限り唯一、同性の友達としてリフレインが気を許しているようにみえる。


 名前はマキナ。セミショートの茶色い髪は部屋の光を反射して艶ややかさを強調する。着崩した制服が惜しい。俺に対する態度は最悪。


 繰り返すがリフレインの友達だ。俺には全く興味がない。


「げ、は酷すぎるだろ。そう。いない。でも、机に置き手紙がある。外出前に何かあったら書いておくようにと言ってあるんだ。裏面で置いたら意味ないんだよなぁ。読んでみるか。」


「え。私が見ちゃマズいかも。」


マキナが目を逸らす。


「意外だ。奪い取って俺よりも先に読むかと思ってた。」


「どんなイメージだ。」


 裏面になっている手紙を表にすると、『おえかきたのしい。』という文字と猫の絵が描いてあった。幼い子どもが描いたのだろうか。微笑ましくて可愛らしい。描いたのは、うん。リフレインだ。


「みてみ。」


 マキナに紙を見せると彼女は吹き出して笑った。


「あはは。子どもみたいなことするんだね。」


「わざと描いたのかマジなのか。何かのメッセージなのか。」


「ふざけたんだよ。君を笑わせたくて。ねえ。リーちゃんはね。嬉しそうにあなたの話をする。いつも。ずるいって思ってた。ま、リーちゃんに優しいならいいか。」


「そりゃ嬉しいな。なら、お前と一緒だ。」


「それってどういう・・・。はっ!あーー!」


 ぬっ。急になんかちっちゃいのが現れた。それをみてマキナは歓喜の声を発した。


「やあ。マキナじゃないか。ただいま。」


「リーちゃんっ!もう終わったの?」


 マキナがリフレインに抱きつき頬擦りをする。強い抱擁。マキナに埋もれてリフレインが吸収されないか心配になる。


「むむむ。うん。早かった。今日はカレー作る。ルーとじゃがいも。にんじん。玉ねぎ。豚肉。バターは多めだから追加で買ってきた。マキナ食べる?」


「食べる!」


「あれ、今日は俺が作る日・・・。」


 マキナの目つきがさっきまでとは完全に変わり、カレールーやバターよりも濃厚な殺意が向けられているので俺は一度、口を黙み、言い直した。


「今から作るのか?カレーだと結構時間かかると思うが。」


「これ。『三ツ星の粉』。ビンタイプ。」


 リフレインは道具を気まぐれで出す。リフレイン自身が出してもよいと決めたときだけだ。


【三ツ星の粉】

 一つの皿に並べた食材にかけると、その組み合わせにより最適な調理後の料理の味を引き出す。ただし、食材はそのままの状態。


「必要な材料を皿に並べて。そして、この粉をかけると。カレールーがあるから大丈夫。カレーになる。」


パッパッ。


「はい。むっちゃ美味しいカレー。」


 リフレインはそう言って皿からにんじんを掴み、ずいと俺の口へと近づけてきた。近づいてくるにんじん。彼女の腕を掴み抵抗する。こいつ。力が強すぎる。

「おいバカやめ・・・。むぐっ。」


 抵抗も虚しく、無理矢理に捩じ込まれた。負けだ。俺は齧った。生のにんじんだ。美味いわけが。


「・・・めちゃくちゃ美味い。」

 バリバリとにんじんを食べているのに。上質なブイヨンとかバターとか、色んな種類のスパイスを使った、最高級のカレーの味がする。


「これも。」

 次にリフレインに粉だけがかかった、剥いてないそのままの玉ねぎを口に突っ込まれた。


「むぐっ。うん。むっちゃ美味しい。」

 玉ねぎからも齧ると同じ味がした。これもバリバリ食べているとマキナから侮蔑するような視線が俺に向けられる。


「リーちゃん、それ、お腹壊さない?別にそいつだけなら心配いらないけど。」

「リフレイン。・・・せめて茹でないか?野菜の皮は?肉、焼かないのか。」


「ち。軟弱者どもめ。一応、大丈夫な筈だけど仕方ない。きみ。茹でといて。」

 不服そうにリフレインが言った。なんで俺が。




 カレーを食べるとマキナは上機嫌で帰っていた。彼女は悪態こそついてくるが、悪いやつじゃない。学校終わりにマキナが訪ねてくる。これもまた日常。


 日常とは。同じことの繰り返しとその繰り返される期待であり。ある種、機械的な連続から形成される人生の一部なのかも知れない。


 そんな日常を裏切るような非日常が何も起こらないことを俺は望んでいるわけではない。日常に置かれた立場の自分が、何か新しいことが起こらないかと期待しているし、誰かにされている気がする。


 少し不思議なロボットとその友人たち。こんな組み合わせは、この巡り合わせは。絶対に不思議なことが起こる筈だ。起こらない筈がない。


 ここに配置された日常では、きちんと正常に何かが起こりそうで、ついワクワクしてしまう。

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