日常製造機
今は冬に近い秋。
ある日、突然に現れたロボット少女。名はリフレイン。出会ったのは夏くらいだったと記憶している。自称、未来から来たロボット。ロボットといっても、彼女は鋼鉄で作られているわけでもなければ、充電を必要とするわけでもない。
だから、自称。未来からきたという確証はないし、ロボットであるかどうかすら分からない。それなのに、周りの人たちはリフレインをロボットだと信じて疑わない。リフレインという存在を受け入れている。俺も例外ではない。ひょっとしたら世界全体が受け入れている。不思議だ。その点について聞いてみると、答えが返ってきた。
「ロボットはね。事象を確認し、情報を取得する。その情報についてほぼ知っているなら将来を予測するし、何かを知らなかったり、何にも知らなければ予想を補完させる。あむっ。」
みたらし団子を頬張りながらリフレインが話す。長めに咀嚼し飲み込んだ後、話を続けた。
「そして、実行するの。それって人も変わらないと思う。人側の思考はこう。人の行動をロボットにさせることで効率化を図り、所要時間を削減したい。そこから始まっているとするなら、そんな目的から生まれた完全独立型のロボットと人に差は無いんじゃなかろうか、と君に説明する。というかない。君に断言する。あむ。もぐもぐという団子を食べる擬音も追加しておく。」
「つまり、人型ロボットは最終的には人に近づくってってことだね。」
俺の言葉を聞いて、フフン、と小馬鹿にしたようにリフレインが笑う。
「いかにも人側の意見だね。人が作ったならね。人型ロボットと人との差は技術の発展によって縮まる。例えば、言葉を発するという目的について、最初はカタコトだったけれど、次第に流暢に話すようになっていく。私のように。だから、人とロボットとの差が無くなったとき、超えたとき。ロボットはロボットだと証明する根拠が無くなる。ん。」
「どうした?」
リフレインは串に刺さった残り二つの団子をどうやって食べようかと考えた後、串を横にして歯で団子を引っ張って口に運び、もぐもぐもぐもぐと、よく噛んでいる。団子はちょっとだけ普通のより高いやつだから、味わっている。
「出かける時間、そろそろじゃなかった?」
食べ終わるとようやく口を開き、串で部屋の壁に立て掛けられた時計を示して、彼女は言った。ぴったり17時。窓の外は薄暗い。
「そうだった。行くか。温かい珈琲を持っていこうか。」
「それなら。もう作ってある。持ち運び用のタンブラーに入れた。えへん。どうやら私は素晴らしいロボット。」
リフレインは大げさに腰に手を当てて、自分の行動を絶賛している。
「ありがとう。ちなみに。それはさっきの話だと予測?それとも予想?」
「ええっと。予想。理由はこう。予想と言った方が君は喜ぶだろって。」
話はこれくらいにして、外に出ることにした。玄関のドアを開けると、冬の一片が入り込んできた。冷気が少しばかりあった眠気を取り去った。ツンとした空気で今にでも雪が降りそうなくらいに冷え切っている。
ギリギリ許容できる。寒ければ寒いほどに、あとで飲む温かいコーヒーが身体に染み渡ることを想像して、楽しみになる。
「さむっ!と言ってみる。先に。」
リフレインにはダッフルコートを着せた。本当は氷漬けにされても耐えられるらしいが、寒さは感じるとのことだ。それに周りの目もあるだろうから、適切な格好をしてもらっている。
「じゃあ俺も。ああ、寒い。早くスーパーに行って、買い物が終わったら公園でコーヒーを飲もうか。」
「やった。公園は楽しい。君、早く行くぞ。」
目当てのおもちゃを買いに行く子どものように、今にでも走り出しそうだ。
「待て待て。そんなに好きか、公園。」
「好き。雪合戦しよう。」
「雪、降ってねえよ。」
「じゃあ、砂で。砂合戦しよう。」
「勘弁してください。」
「仕方ないなぁ。ブランコで手を打とう。」
リフレインからの提案。寒い日のブランコ。小さい頃に経験はある。持ち手の鉄臭い鎖は冷たいし、漕げば冷風が直撃する。想像するだけで寒い。嫌だ。最悪だ。けれども砂合戦よりはマシだ。ブランコにより、俺の想定よりもコーヒーが身体に染み渡るだろう。
「・・・いいだろう。」
いつだったかリフレインは言っていた。人を堕落させるようなサポートは出来ない。そう言われて、あくまでも人とロボットは対等な関係なのだから、それもそうかと納得した。
が、よくよく考えるとおかしい。快適と堕落の線引きは難しいけれど、おつかいくらいは良さそうなものだ。コーヒーは入れてくれたのに。道中、それについて聞いてみるとウィーーン、と言って誤魔化されてしまった。
今日も彼女と買い物に出かけることになる。
そんな日常がたまらなく嬉しい。