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機械仕掛けのリフレイン  作者: リリー
リフレイン
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リフレイン

 擬態。それがあれであるかのように存在すること。擬態は生物や植物の生存する一つの選択肢だ。


 擬態によって騙すものと何も知らないが擬態されるもの。そして、それに騙されるもの。擬態には、必ずそれらが登場する。


 もし、誰もが実は存在している擬態に気付いていないとしたら、俺達は騙され続けているといえるのかもしれない。


『美味しい美味しいカニカマ!』


 テレビからカニカマのコマーシャルが流れる。何度もみた。知らない女優や男優が一斉にカニカマを齧り、うーん、カニの味!とか、うまい!とか言って下らない寸劇のようなものを繰り広げている。


 勿論、カニカマは擬態ではない。カニの模倣だ。その味はカニを超えることはあるのだろうか。その場合、それは。


「本物なのか?」


「シラナイ。」

「だよなあ。」


「カニヲタベタコトガナイカラネ。」

「俺も。」


「ムカシハタベラレタ、ラシイネ。」

「そうだな。みんな食ったことがないもんな。あんな硬そうなやつが脚だけプルプルなのも怪しいし。ところで。」


「ナニ?」


 テレビへの視線をこちらに移し、そいつがゆっくりと振り向いた。


「お前は誰だ?」


「ワカルダロ。」

「わからんて。今どきそんなわざとらしいロボットみたいな口調を使うやつなんて。」


「ミタイナデハナイ。ソノ、ロボットダ。キミラガイウ、ソウキスル、テンケイテキナロボットダ。」

「どうみても最先端の見た目だが。まるで人間みたいだ・・・いや。」


 知らないやつがいる。平然と当然のように知らない奴が一緒に俺の部屋でカニカマのコマーシャルをみている。小さい女の子だ。髪は長いが綺麗に手入れがされているようで、大きな瞳も可愛らしい。


 しかし、瞳の奥にどこか冷たさを感じる。白いフード付きのパーカー。白金のような髪色。全身の白く洗練された姿に唯一、黒い髪留めは物干し竿?ああ、アンテナか。それが左右の前髪に一つずつ。未来の世界のヒトガタロボットだと言われても違和感はないのかも知れない。


 そんな彼女を見ていたら、自分の発言が大人気ないことに気がついた。この自称ロボットが小さいと言っても幼児ほど小さいワケではないのだから、年相応の空想というにはあまりにも精神的に幼すぎると感じたが、本人がそう言うのだから、乗ってあげればいいじゃないかと思い、俺は言い直した。


「凄いな。最近のロボットは。」

「ダロウ。ダガ、サイシンデハナイ。オーパーツラシイ。キミノジダイジャマダムリ。シランケド。サワッテミルカ?」


・・・うーん、どうしよう。1パーセント足りとも彼女をロボットだなんて思ってはいない。


 オーパーツか。正直、その言葉に対しては興味がある。文明の技術的な限界を超越した高度な技術。それがこいつだとしたら。しかし、みだりに触るのは良くないのかも知れない。


「やめとく。」


 返答までに若干の間が出来てしまったが、芽生えた好奇心をなんとか堪えることにした。


「ソウカ。ナラバ、コレナラドウダ。」

「・・・ウィーーン。」


 そう言いながら、彼女はぎこちなく手足を動かした。


「え?」


 わからん。思わず、困惑の声が漏れ出た。


「イヤ、ウィーーンッテ、イウノガロボットナノデハト。シンジタ?」


「知識がちょっと古いんだよ。で、そのロボットが何のよう?俺を助けにでもきた?未来を変えに?」

「アワテルナ。ソノトイニハ。サンジュウビョウゴニ。コタエテヤル。」


「わかった。何か飲む?」


「オレンジ・・・。ジンコウカンミリョウ100パーセントノヤツ。」


「オレンジジュースか。まだあったかな。」


 ピロン!ピピピ!


「うわっ!」


 冷蔵庫の中身を確かめるために椅子から立ちあがろうとした瞬間に大きな音が鳴った。


 驚いた。最近じゃあまり鳴らなかった警告のアラームが鳴り、緊急の中継に映像が切り替わる。


『緊急速報です!』


「緊急速報?なんだ?」


『空から!謎の大群が世界中に現れました!一斉にです!建物を次々と破壊してます!それに・・・人間も次々と!避難してください!』


 レポーターが交差点で必死に叫んでいる。それに色んな人の悲鳴が聞こえる。


『ドン!』


 これは爆発音?それとも巨大な足音?それにしては音が鈍い。避難を促すレポーターの彼に何かが近づいている。


『おい!もうダメだ!俺は逃げる!やってられるか!』

『どこにだよ!』

『うるせえ!死にたきゃ勝手に死ね!』


 別の誰かが逃げ出したようだ。あまりの迫力にこれが本当に起きていることなのだと理解する。ドラマだったらやりすぎだ。


『酷い!人が!うっ!オェエエッ!ウワアア!』


『ドン!』


『きた!うわぁああああ!ロボットだ!』

『キャアアアアアア!』


『ドン!』


 わかった。この音は銃の発泡音ではない。人が宙に浮いて、凄い勢いで叩きつけられた音だ。安いスプラッター映画でもみているようだ。なす術もなく人が死んでいく。


『これはフィクションではありません!これはフィクションではありません!ありません!ありません!ありません!あ!ああああ!浮いていく!嫌だあああっ!離して!ぁぁぁああ!』


『ドン!ドン!』


『ドン!』


 さっきまでは色んな声がしたが、もう誰の声も聞こえない。テレビの中で繰り広げられていた賑やかなイベントは一瞬で静けさに変わる。


 壊れゆく都市。悲鳴の多重奏。こんな悍ましいものは初めてみた。最後には映像が映らなくなった。


「なんなんだ。」


 俺の頭がおかしくなったのか?なんだ、なんなんだこれは!?混乱してきた。息が苦しくなり、目眩がしてきた。吐き気が込み上げ、ついには嘔吐した。


「オイ。ダイジョウブカ。」


 こいつは俺と同じく惨状を終始みていた。だというのに全くもって慌てたりする素振りがない。それじゃあ、まるで。


「うう。ロボットがどうとか言ってたな。お前も。」


「ハア。セツメイガハブケタ。イヤ、サンジュウビョウタッタノダカラ。キミノリカイドカラ、スイサツスルニ。セツメイカンリョウトイワセテモラウ。」


 彼女は、にこっと笑い、自慢げにとても嬉しそうに言った。


 まさか。まさか。まさか。まさか。まさか。まさか。まさか。まさか。まさか。まさか。本当に。


 中継は何者かが侵略してきたと言っていた。じゃあこいつは?その?このタイミングならそうとしか考えられない。


「イマノキミナラ。ワタシヲシンジルダロ?ロボットノソンザイヲシンジルダロ?ホントウハ、シンジテイナカッタダロウ!キミ!」


「お、お前もなのか?こいつらはロボットで俺らを!人間を殺しに!」


「ソウダ。」


 テーブルの向かい側から冷たい機械のような声がした。いや、声は変わっていない。そう感じたのだ。


 彼女の肯定の言葉を聞いて、ぞわっと血の気が引いた。頭痛がする。目眩が再びやってきた。呼吸の仕方すら忘れてしまいそうになる。いや、忘れていたのだろう。だから、そこで俺の意識は一度切れている。


 意識を取り戻して最初の景色は変わらない天井だった。時間だけが経過したようだ。俺は寝ている筈なのに、気にせずロボットが話しかけている。


「マッタク。キミラガソウキスルロボットハ。ツネニヒトガタカ、ネコガタダ。ツケルカ?ヒトメデワカルヨウニ。ネコミミ。」


「そうだな。有名な先例がそうだったからだろうな。付けんでいい。もうわかった。」


「アッ。オキテタノ。マタ、オドロカナイノ?」


「夢をみた。」


「ドンナ?」


「ええと・・・。覚えていない。・・・確かに俺は驚いたよ。でもこうして目覚めても苦しみがない。」


 手足を動かしてみる。自由に動く。


「拘束もされていないようだね。夢はね。たぶん心地いい夢だった。そして気持ちのいい目覚め。脳が落ち着くには充分な時間だったよ。さあ、もういい。俺を殺してくれ。」


 このときはいやに落ち着いていたと思う。俺は両手を広げて無抵抗のポーズをとった。


「フ、コロサナイヨ。キミノハヤトチリ。」


 ロボットは笑いながら言った。


「でも、殺しに来たって。」


「ソレハキミガイッタ。アノトキキミハトウタ。ワタシガロボットカドウカト。ワタシハソウダ、トコタエタ。サラニキミハトウタ。ニンゲンヲコロシニ?ト。コタエハコウ。コロサナイヨ。」


「じゃあ俺に出会った目的は?」


「キミニツタエルタメ。ニゲヨウ。アノ、サツリクロボットタチカラ、ト。」


「・・・どこへ?」


「イコウ。クダラナイニチジョウガアル。クナンモアルケド。キミガクラシテイタ、ヘイワナニチジョウヘ。コウナラナイ、セカイヘ。」


「俺以外の人間はどうなる?」


「スデニホトンドシンダトオモウ。キミモイズレ。ココニイテモハジマラナイ。カイヘンスル。」


 俺はしばらく考えた。考えて考えて。その提案を拒否する理由を山のように思いついた。


「・・・行こうか。ロボットちゃん。」


 積み上げられた理由の山はすぐに崩れ落ちた。少しばかり躊躇をしてみたが、伝えられた今の惨状に抗う気も起きず、考えた理由のどれもがこれからする行動を止めるほどには至らなかったのだ。


 俺はロボットの言う平和な日常へと向かうことにした。


「リフレイン、ダヨ。ヨロシクネ。コッチ。」


 リフレインから繋いできた手は柔らかく、少しも冷たさを感じなかった。


「ああ、よろしく。リフレイン。」


「ウィーーン。」

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