表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

第5話

「ねぇ。ここからどうするの?」

僕と栞は、クレイマンの自宅から数キロ離れた小高い丘にいる。

そこから双眼鏡を使い、様子をうかがっていた。

「うーん、どうしようか。」

どうやってアプローチしても、途中で気づかれる危険が高かった。

様子をうかがうというより、攻めあぐねている。

「ん?何か飛んでくるよ。」

栞がそうつぶやいた。

僕も双眼鏡をのぞく。

「紙飛行機?」

クレイマンの自宅の方から、まっすぐこちらに向かってくる。

尋常じゃない飛距離とコントロール。

「痛っ。」

近づいてきてもなお、双眼鏡をのぞいていた栞の頭に紙飛行機がぶつかった。

「何してるの。」

「見て、紙飛行機。」

「知ってる。」

栞が拾って差し出した紙飛行機をよくみると、折った内側に何か書いてあるようだった。

「それ、広げてみてよ。」

「?」

「中に何か書いてあるみたい。」

「ほんとだ。」

栞が急いで紙飛行機を広げる。

「“正面玄関からどうぞ”?」

「とっくにバレてたみたいね。」

丁寧に手書きの地図まで書いてある。

「行く?」

「行くしかないでしょ。」

丘を下り、正門へと続く並木道を進んでいく。

追い風が背中を押し、急かすようだった。


 × × ×


しばらく歩くと、正門の前に辿り着いた。

門の格子越しに正面玄関が見える。

表札の下にあるインターホンを押そうとしたところ、独りでに門が開いた。

「え?何?怖い。」

栞が腕にしがみついてくる。

仕方ないからそのまま歩き出す。

玄関に近づくと、中からメイド姿の女性が出てきて、迎え入れてくれた。

その顔には見覚えがある。

「ねぇ、あの人。」

「うん、10番目だね。」

10番目の土人形。10個目の図形の一番下にいた素体。

この人、いや、これが対ナンバー1トップヒーロー用に作り出された土人形。

10番目のメイドに導かれるまま、屋敷の中を進んでいく。

広い応接間に入ると、上座にクレイマンが座っていた。

「ようこそ。我が屋敷へ。居心地はいかがですか?」

「随分と立派で、圧倒されていますよ。」

クレイマンと長い机を挟んだ下座の席に座るよう、促される。

「それにしても、こんな広い屋敷に人1人とは、なんとも物寂しいですね。」

「おやおや、そこにメイドが控えているではないですか。」

「これは失敬。勘定に入っておりませんでした。」

クレイマンはメイドに向かって手招きをする。

「テン。こちらに来なさい。」

「承知いたしました。」

「さぁ、お客人に挨拶を。」

「私、クレイマン様の元でメイドをしております、テンと申します。お見知りおきを。」

丁寧にお辞儀をするテン。

「こちらこそ、よろしくお願いします。」

栞も続く。

「よろしくお願いします。」

「挨拶も済んだところで、本日はどのようなご用件で?」

「あなたを止めに来ました。」

「私を止める、とは?」

「あなたが進めているクレイドール・クレイドル計画のことです。」

「おや、データは完全に消したはずでしたが、あなたを過小評価していたようです。」

「何故、このような危険な存在を作り出すのですか?」

テンと名乗った土人形を指して尋ねる。

「それは違いますよ。彼女たちは危険ではない。あなた方、ヒーローを救う存在です。」

「クレイドール計画のことですか?」

「そうです。彼女たちが代わりに戦えば、ヒーローの消耗を防ぐことができた。」

クレイマンが感情を露にする。

「それなのに!」

テーブルに勢いよく手を突くクレイマン。

「邪魔をされた。富と名声に目が眩んだ、自分を守ることしか興味のないヒーローに!」

こちらを睨みつけてくる。

「だから、私は彼女たちを進化させることにした。」

僕は、少し気圧されていた。

「1つの身体を受け皿に、親和性の高い能力を複数所持させる。」

栞も同じようだ。

「生身の人間ではなし得ないことを実現し、証明してやる。」

テンが、クレイマンの真横に立ち、上品に手を身体の前で重ねる。

「彼女たちの方が、トップヒーローより上だと!私が正しかったと!」

「来るよ、栞。」

「うん。」

「ヒーローが傷つかない。そんな新たな時代が、彼女たちから始まるのです!」

テンから強風が吹いてきて、僕も栞も椅子から転げ落ちた。

今度は、その風を操り、自分の身体を浮遊させたテンが迫ってくる。

首根っこを掴まれ、簡単に持ち上げられてしまう。

そのまま、窓を突き破り、外に投げ出された。


 × × ×


僕と栞は庭園に転がっていた。

受け身を取れたためダメージは少ない。すぐに立ち上がる。

「大丈夫?栞。」

「うん、なんとか。」

僕は栞に手を貸し、立ち上がらせた。

体中が痛むが、この程度ならまだ大丈夫だ。

浮遊していたテンが着地する。

距離にして25メートルほどか。

テンを中心に天候が悪化していき、台風の渦中にいるような感覚だ。

圧倒的な自然の猛威に晒されていたが、恐怖は感じていなかった。

それよも、クレイマンに対する申し訳なさが沸々と湧き上がってきていた。

「栞、行ける?」

「いつでも。」

僕の相棒は頼もしい。

申し訳なく感じているのは、そのせいだろうか。

栞は、時を止める能力者。次世代のトップヒーローと目される能力者なのだ。

吹き荒れる雨風に氷の粒が混ざり始める。

「栞!」

栞が時間を止めた。

眼前で野球ボールほどの氷の塊が止まっていた。

雹の域を超えてるだろ、と思いつつテンとの距離を詰める。

イロハを倒した時と同じように、ヘッドホンでの攻撃を準備する。

テンの胸に押し当て、栞に合図を送った。

栞が時間停止を解除する。

それと同時に、テンの身体に音を送り込んだ。

しかし、そう上手くはいかなかった。

「鳴鈴!避けて!」

気づくとすぐそばに、アジトで戦った543番がいた。

テンから距離を取る。

「ありがとう、栞。」

栞の方に視線を送ると、栞は2人の543番を相手にしていた。

「行けー!コヨミー!」

クレイマンが叫んでいた。

543番のことのようだ。

この短時間で3人も土人形を作り出したらしい。

僕はケータイを取り出し、クレイマンを狙う。

コヨミ達に気づかれるより先に、サイドボタンを押すことができた。

だが、テンの雷に弾道を逸らされる。

心臓には当たらず、右に少しズレて当たった。

肺の機能に影響を与えたのか、クレイマンはもがいている。

「栞!今のうちにケリをつけよう。」

「わかった!」

一度戦った相手だからか、栞はコヨミに対して優勢に戦いを進めている。

すぐに方が付きそうだった。

僕はテンの攻撃が栞に向かないよう、距離を詰めて気を引き続けた。

雷は電流操作でいなし、雹による物理攻撃はレーダーで探知して、避け続ける。

そうしているうちに、肩に触れられた感覚がして、時間が止まった。

決着の時が来たようだった。

テンの胸にもう一度ヘッドホンを押し当てる。

栞は、念のためとテンの手足は時間を止めたまま、それ以外の時間停止を解除した。

ほどなくして、テンの身体が砕け散った。

クレイマンの悲痛な叫び声が聞こえる。

這いつくばったまま、こちらに右手を伸ばし、睨みつけていた。

その声を聞きたくなくて、栞に時間を止めてもらい、クレイマンの方へ歩いていった。

クレイマンのもとに着き、栞が時間停止を解除する。

僕たちに気づいたクレイマンは、仰向けになった。

「貴様ら、よくも…。」

ケータイをクレイマンに向ける。

今度は外さないよう心臓に狙いをさだめ、サイドボタンを押した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ