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第4話

「やっほー。」

栞が病室の扉を勢いよく開けて入ってきた。

「調子はどう?」

僕は手に持っていたタブレット端末を置き、栞の問いに答える。

「暇で仕方ないかな。」

「んー、こんな天気じゃ、どこにも行けないしね。」

2人とも、窓の外に視線を送った。

ここ数日、というより、クレイマンのアジトに潜入した次の日から荒天続きだ。

「鳴鈴はどのみち無理か。」

「そうだよ。」

少し不機嫌な言い方をしてみる。

「まぁ、そんなに怒らない。これで機嫌直して。」

栞がお見舞いで持ってきたのであろう品を取り出した。

マスク、クラウン、アンデスに夕張。

ちゃっかりしている。

「どれがいい?」

カットメロンの盛り合わせを僕の方に突き出し、そう尋ねてきた。

「じゃあ、クラウン。」

「これかな。」

夕張はまだしも、他3種の見分けがつくとは。

フォークで刺したメロンを口に運んでくれる。

「はい、あーん。」

美味しかった、が、僕の口に運ばれたのはそれが最初で最後だった。

「何してたの?」

「クレイマンのアジトで入手したデータの復元。」

「進捗は?」

「捗ったよ。他にすることもなかったし。」

「何かわかった?」

「クレイマンの素性、イロハやもう1人の襲撃者の正体、プロジェクトの概要。」

そばに置いていたタブレット端末の画面をつける。

「まだ復元できてない部分もあるけど、結構色んな事がわかったよ。」

「あれだけ無理して、成果があって良かった。」

「刺された甲斐もあったというものだよ。」

「それじゃあ、まずすべきは傷を治すこと、それに専念して。」

「そうしたいけど、そんな悠長にしてる時間はない気がする。」

「どういうこと?」

「クレイマンの計画が、もう最終段階まで来ていると思う。」

「そんな。」

「無理を押してでも、すぐに対処した方がいい。」

「わかった。そこまで言うなら聞かせて。」

僕の方を真っ直ぐ見据える栞。

「得た情報、その内容について。」


 × × ×


僕たちは病院の会議室を貸し切り、そこで作戦会議をすることにした。

部屋を暗くし、プロジェクターで情報を映し出す。

「クレイマン。本名、久礼(くれい)万次郎(まんじろう)。」

「うわ、まんまじゃん。」

「ベータベースで検索したら、同姓同名が1件ヒットした。」

そのプロフィールを表示する。

「ヒーロー名、“クレイマン”。元ヒーローのヴィランみたい。」

「能力は、やっぱ粘土を操る能力なんだ。」

「そう、攻守に長け、前線での戦闘も後方からの支援も得意とするバランス型の能力。」

「でも、今とは違う能力の印象を受けるね。」

「その理由はこれかな。」

白衣を着て、あたかも研究者のようなクレイマン、もとい、久礼万次郎の姿を映す。

「彼はヴィラン落ちするまでの数年、ある研究に没頭していた。」

「研究?」

「クレイドール計画。土人形に能力を与え、ヒーローの代わりをさせようというもの。」

「この前、アジトでチラ見したやつ?」

「それとは別物、というより、内容的には前身というべきかな。」

「1つ疑問なんだけど、久礼万次郎はどうやって土人形に能力を与えたの?」

「そこはわからなかった。計画の軸だからか、そこの情報管理は徹底してたみたい。」

「わからないか。能力封じに使えるかと思ったけど、仕方ない。」

「でも、その方法がどうやら内部で非難の的になり、計画は中止となった。」

久礼万次郎のプロフィールに、大きく除名と印を押された資料を映す。

「加えて、計画自体を良く思ってなかったヒーローの思惑も絡み、結果、除名処分。」

「ヒーロー活動の権利まで奪われちゃったんだ。」

「その後、それまでの研究成果を持ち出して、消息不明に。」

復元したデータを映す。

番号を振られたレポートを日付順に並べる。

「復元したデータからすると、消息絶ってすぐに研究を再開してたみたいだね。」

「じゃあ、今、表だって動き出したってことは…。」

「そう、計画完遂の見通しが立ったんじゃないかなと。」

「なるほどね。それで、時間ないかもって。」

「そういうこと。」

「それで、その完遂間近の計画が、アジトで見たクレイドール・クレイドル計画か。」

「その通り。ヒーロー時代のクレイドール計画を、除名後に引き継いだ計画。」

「どんな計画なの?」

「これを見て欲しい。」

画面を切り替える。

「何これ?家系図?でも、全員女の人だ。」

僕は無数の顔写真が並ぶ中から、図の1番下にある女性を指し示した。

「ここ見て。」

「これは、イロハ?」

「たぶんそう。下に書かれた数字、わかる?」

「168番。168でイロハってこと?何、168番って。」

僕はイロハの顔をクリックした。

すると、映像記録の一覧が表示される。

最新の記録を再生した。

白衣姿のクレイマンが映った映像が流れ始める。

「本日16時頃、素体番号168がヒーロー2名と戦闘を行った。」

「透明化、無音化の能力をメインに接近戦で優位に立つも、決定打を与えられず。」

「原因は、透明化発動による視力喪失の対策に組み合わせた333番の索敵能力にあり。」

「相手の能力が、電波を感知できたため、索敵で放った電波を逆に感知された様子。」

「結論として、電波以外にも別の方法で索敵できる能力を与える必要あり。」

そこで記録は終わっていた。

図形には、168番のイロハと333番の女性が横線で繋がれている箇所があった。

その横線から下に伸びた線の先には168番のみが表示されている。

「おそらく、1つずつ能力を与えた素体となる土人形を作り、名前代わりの番号で管理。」

僕は適当に顔写真をクリックしていった。

「ベースの素体に別の素体に組み込むことで、複数能力持ちの素体を作り出している。」

「複数持ちの能力者?」

「実際にはある程度親和性の高い能力を組み合わせてる感じじゃないかな。」

「確かに。イロハに与えられた能力は、隠密に使えそうなものばかりだね。」

「最強のステルス性能を持つ能力者を作ること。」

「それがクレイマンの目的?」

「目的達成の手段ってとこだね。」

168番の図を閉じ、別の素体の図を開く。

「この人、アジトで襲ってきたもう1人じゃん。543番?」

「この図では、時間にまつわる能力を組み合わせているみたい。」

「まだ他にもあるの?」

僕は先に表示した2つを含む9つの図を画面に表示させた。

「うわ、マジ?」

「それぞれの図にある能力の系統。何か気づかない?」

「あ、トップヒーロー10人のうち、9人と被ってる。」

「その通り。」

「え、まさか、作り出した土人形を同じ系統のトップと戦わせて倒すつもりってこと?」

「たぶんね。クレイマンは潰されてしまった自分の計画の有用性を証明したいのかも。」

「じゃあ、もう1つ図があるよね?天気を操る能力者。」

「まだ復元が終わってない部分があるって言ったでしょ?たぶん、それが最後の図。」

復元途中のデータを表示する。

まだ、ほんの一部の文字しか読み取れない。

「雪とか風って字が書いてある。じゃあ、やっぱり。」

その時、閃光とともにけたたましい轟音が響いた。

近くに雷が落ちたようだ。

「この荒天続きの原因って。」

「十中八九、そうだろうね。」

「クレイマンが計画の実験か何かをしてる。」

「もし仮に、ここまで天気を操れるなら、ほぼ完成してるとみて間違いないと思う。」

「早く対処しないと。」

「うん、行こう。無理を押してでも。」

「じゃあ、早速。」

会議室を飛び出そうとする栞。

「待って、どこ行くの?」

「どこって、クレイマンのところに決まってるでしょ。」

「居場所、わかるの?」

「あっ。」

僕は地図を表示させる。

それを見るために栞が戻ってきた。

「あの赤い点、あれが今クレイマンのいるアジト。」

赤い点は別荘地の外れにある豪邸を指し示していた。

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