表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

シルキーは旦那様のお世話するのが大好きです。

作者: カケル

家事が得意なシルキーは、都市部から離れた地方を好む。そして代々続く家で献身的に家事をこなす。

「旦那様」

「んん……」

「朝です。起きて下さい」

「まだ眠いんだ」

そう言って、旦那様は寝返りを打つ。

「そうですか」

そして亜空間から取り出す一冊のノート。

「旦那様の自作ポエム――」

「おっともう朝か」

素早い動きで、旦那様はベッドから降りた。

私はそのノートを片付けた。

「今日の予定は何だ? シルク」

「はい、九時から財団との会議、お昼は奥様と新しいレストランの開業式、二時には――」

と、今日の予定を旦那様に伝えた。

彼は頷くと、仕切りの向こうで着替えを終えて出てくる。

「今日の朝食は?」

「パン、肉料理三品、魚料理三品、ワインとエールです」

「……シルク、私は小食だと何度言えばわかるんだい?」

「つい作りすぎてしまうんですねこれが」

「それは前にも聞いた。私のことが嫌いかい?」

「いえ、嫌いではございません。恐縮ではありますが、大変お慕いさせて頂いております」

「ではなぜ、好いている相手に無理強いさせるようなことをするんだい?」

「日ごろから運動しているとはいえ、エネルギー不足ではお仕事に支障をきたします。加えて、肥満とはすなわち富の象徴でございます」

「その肥満によって、毎年少なくない人数の貴族が死んでいると聞く。お前は私に死ねと言いたいのかい? 薄情な精霊だな」

彼の身なりを最終確認と調整をして、私は出口に向かい扉を開けた。

彼の後ろに続く。

「彼らの肥満度は人間が有する限界値を大幅に超える肥満度合いでございます。今の体重から五キロは増やすのが、旦那様には適切かと思われます」

「そんなに食べられないよ。それなら何もせずにいた方がマシだね」

「それでは基礎代謝が落ちます」

「さっきからめちゃくちゃ言ってる自覚ある?」

「よく食べ、よく働き、よく運動し、よく寝る、旦那様のお言葉ですが?」

「全部僕はこなしているよ」

「では何ですかそのお体は」

筋肉の塊。

小食であるはずなのに、彼の身体は筋肉の鎧で覆われていた。

「その分肉を食べているからかもしれないね」

「肉だけの問題ではございません。筋肉を構成する肉は適量でございますので、そこまでの筋肉膨張はあり得ません」

炭鉱で働く鉱夫そのものだった。いや、それよりもなお逞しい筋肉である。

夜な夜な奥様が興奮されるのがよく解る。

「しかし、それ以上のことは何もしていないんだがなあ」

食卓に座り、食事を始める旦那様。

その所作は優雅で美しかった。

「異常でございます。今すぐに病院にかかられた方が」

「病院は嫌いでね。ヤブ医者が多いじゃないか。この方一度も重い病気に罹ったことが無いのに、何を見てもらえと言うんだい? ここ数年異常は無し。それでいいじゃないか」

「……かしこまりました」

私は退く。

旦那様は頑固だ。私がどれだけ進言しようと、納得なさらないことは頑として受け入れない。

今回は私が折れる他なかった。

食事を終え、支度を始める旦那様。

「今日は遅くなるよ。マリアとディナーを楽しんでくるからね」

「かしこまりました。護衛からは離れないようご注意ください」

そして旦那様は馬車に乗って言ってしまわれた。

「さて……」

私は屋敷を見渡す。

この家も随分とガタが来ている。

再生魔法を使用するにも、材料となる木材や銀類が足りない。

「取りに行くとしましょう」

メイド服から戦闘服に切り替える。

近隣で植林した木々に向かい、風魔法を用いて切り倒す。その数、数十本。

都市部の屋敷と違い、ここの屋敷は広大だ。

辺境の地を求めたのも、億劫な人間関係から距離を置くという旦那様の考えもあるが、より広く、より大きい土地であれば融通が利くという利点も考えての事。その分維持が大変ではあるが、私の手に掛かれば大したことではない。

「あの調子では、世継ぎが生まれるのも時間の問題ですかね」

毎夜毎夜あれほど熱い夜をお過ごしなのだ。

亜空間に木材を収納し、旦那様所有の鉱山に目を向ける。

「今回も素敵なシルバーリザードがいればいいのですが」

シルバーリザードの強靭な身体と獰猛性に、中級冒険者であろうと手を焼くほど。

「二、三体欲しいところですね」

鉱石を主食にするロックリザード。

食べる鉱石によって身体を変質させるが、あの鉱山は銀が豊富だ。

普通の銀が、シルバーリザードが食べることによって純度の高い銀へと変わる。

「旦那様も勘が鋭い」

商人の勘と、先を見通すような洞察力。

歴代の当主に置いて彼の右に出る者はいませんね。

「素晴らしい当主です」

私は鉱山に向かった。

今回は豊作だった。

十体は獲れた。

「ふふっさ、美しいですね」

首をバッサリと斬り落とされたシルバーリザード。

肉までが銀色に染まっている。

この肉が市場では高級品として出回っているのだからぼろ儲けである。

「盗賊や冒険者も処分いたしましたし」

違法に鉱山に侵入した彼らを断罪し、首を鉱山付近に晒している。足を踏み入れた人数だけ並んでいくのだ。その効果もあって賊の数は減ってきている。なんなら内臓を引き摺りだしてモンスターの餌にしたこともある。

「こういう息抜きも大切ですよね?」

服に着いた血を魔法で捨て去り、屋敷へ戻る。メイド服へと着替え、掃除を始める。

ここには私以外にもシルキーが何体かいる。最近入った者は何ともドジで。

「あわわわ~ッ!?」

廊下の花瓶に水をやっている最中にこかしてしまうシム。

それを私の魔法で浮かせて、落下寸前のところで止めた。

「シム」

「ももも、申し訳ないのですシルク様ッ」

花瓶を基の場所に戻す。

何度も頭を下げて目を瞑るシム。終いには土下座すらする彼女に。

私はその頭に足を置いた。

「何度言えばわかるんですかあなたは」

「たた、大変……たいへん、もうしわけ、ないのです」

はあはあ、と呼吸を荒くする彼女。

通りすがりのシルキーが、頬を染めて、いいなあ、と呟いていた。

「あなたがドジなのは解っていますが、いい加減直してもらわないと大きな事故を起こしてしまうんです。旦那様に失望されて、捨てられても知りませんよ」

彼女の雰囲気が変わった。

身体を震わせて。

「そそそそそそそ、それだけはあ~……」

と。

「ではしっかりと変えていきなさい。旦那様は常に変化・成長を繰り返すお人です。こんな体たらくをしていては、いずれ彼に置いて行かれますよ」

「……も、申し訳ございません」

とても小さい声だった。

「はあ……」

足をどかし、彼女を立ち上がらせる。

「あなたには期待しているのです。しっかりなさい」

「うう~……」

涙を流すシム。鼻水も流している。

頭を撫でてやると、えへへと笑っていた。

周囲から漂う嫉妬。

「あなた達」

透明になり、私たちを伺う彼女たち。

総勢九体。シムを入れて十体。

「早く仕事しなさい。それとも、私の特訓を受けたいシルキーがいるのかしら?」

ビクウウウウウウッと反応する彼女たち。そそくさと消えていく。

まだまだ気配を消すのが下手ですねえ。

シムに仕事に戻るように言って、私は倉庫へと足を運ぶ。

木材とシルバーリザードを亜空間から取り出す。

そしてそのすべてを。

魔法によって解体し、粉砕し、家の隅々にまで行き渡らせた。

柱、屋根、枠、扉、階段、ランプ、食器、シャンデリア――木材と銀が使われているすべてに行き渡らせ、修正していく。

「いいわね」

作業が完了した。

しかし、それらがしっかりと馴染むまで魔力を使い続けなければならない。

「今回は少し疲れますね」

家の拡張と所有物の増加に伴い修復する量が多くなった。

けれど仕方ない。今回はその修復すべきものが重なっただけなのだから。

「さて……」

シムの教育をしながら、私も家事をこなしていく。

一部屋一部屋丁寧に、物一つ扱うのも当然の如く。

夕方ごろ。

全ての業務が終了し、全員にいとまを与えた時。

「…………」

街中を歩く旦那様方の周辺に物々しい雰囲気の集団がいることに気づいた。

「おや、お客様ですか」

戦闘服に着替え、そちらへと移動する。

「妻に手を出すな、ごふっ」

「旦那様っ」

「標的はこいつだろ? さっさと殺して女と楽しもうぜ」

「そうだな。こんな上玉見たことねえよ」

「んでんで、どっかの奴隷商にうっぱらえばいいんだ。傷物になるがいい金になると思うぞお?」

「ぎゃははははは~」

そして羽交い絞めにする奥様に手を出そうとする輩に。

私は蹴りをかました。

路地裏から表道へと吹き飛んでいく一人。

「ああ!?」

「シム」

「殺してやりますっ」

「殺しはダメ。後で拷問するんだから」

「それは最高なのですっ」

敵は十人。全員で来たのだけれど、シム一人でも十分ね。

底辺も底辺。雇った人間の底も知れるわ。

瞬く間に倒れ伏していく輩ども。

「全員屋敷に連れて行って頂戴」

そして現れる彼女たち。

彼らを拘束して、消えた。

「旦那様っ!」

傷ついた旦那様に走り出す奥様。

涙を流して旦那様に抱き着いていた。

「申し訳ございません。観測に遅れが生じてしまいました」

礼するも、私はぎゅっと拳を握った。

罰せられる覚悟をして。

「いや、大丈夫だ。妻も私も無事だったからね」

「しかし――」

私は顔を上げてしまう。

「じゃあ罰を与えよう。今日は部屋に来てくれるかい?」

「ッ!?」

「旦那様っ」

奥様が顔を赤くして旦那様を見ていた。

私も顔を赤くして彼を見る。

目が合い、視線を逸らす。

そして深い夜。

「………」

部屋の中にシルキーが全員いた。

「あの、旦那様?」

私はベッドの上に彼に問いかける。

「皆僕のために頑張ってくれたからね。ご褒美を上げようかなって」

「私の罰は……」

「ああ、君には特別に」

「あ」

後ろから奥様に肩を掴まれた。

「彼女、上手なんだよ?」

奥様に手を引かれて、ベッドに押し倒された。

長い夜が始まったばかりである。


https://ncode.syosetu.com/n3853ip/

【集】我が家の隣には神様が居る


こちらから短編集に飛ぶことができます。

お好みのお話があれば幸いです。


いいね・ブクマ・高評価してくれると作者が喜びますm(__)m

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ