会った時から好きでした
私が初めて彼に会った時の第一印象は、「なんか、性格良い人そうだな」だった。
隣の席に座っていた彼は、背筋をぴんと伸ばしていて、礼儀良く両手を太ももの上に乗せていた。俯くことなく真っ直ぐに前を見ていて、その目はとても澄んでいた。お手本になるような横顔だった。
中学の入学式の日、私は何か特別なことが始まりそうな予感がした。
初めて見る顔だらけ、全員同じ制服を着ている教室、窓から見える外の景色、、、全てが新しい、中学・高校生活の始まりである。校内に植えられている桜並木が満開で散り始めていて、春が私たちを祝福してくれているかのような美しさだった。
式が終わって、ゾロリゾロリと教室に戻り、出席番号順で自己紹介をすることになった。ガタガタっと椅子の音を立てて、「ええっと、、、」から名前を言い始め、好きなことや趣味を言って、「これから6年間よろしくお願いします」と言う。私はこれがとても苦手だった。とても緊張するし、恥ずかしいし、怖い。でも、私は燃えていた。入学ムードに鼓舞されていたのだろうか。「小学校とは違って、中学では絶対良い友達作ってやる!!だって、ここでは私は、、、」。
「次ー、出席番号20番ー」
私の番になった。やや浅めの深呼吸をして、すっと立ち上がった。クラス中の視線が睨むかのように私に注がれた。
「えっと、三浦カンナです。絵を描くことが好きです。これから6年間よろしくお願いします」
当たり障りのない自己紹介だったけれど、なぜか少し拍手の音が先程よりも大きく聞こえた。入学式の代表を務めたお陰で、少し有名人になったみたいだ。そう、ここでは私は、学年一位。きっと友達も作りやすくなるはずだ。
入学式の代表で大勢の前に立ったあの肝っ玉はどこに行ったのか、私は自己紹介後も心臓のバクバクが止まらなかった。心を落ち着かせているうちに、彼の番が来た。
「神谷ハルトです。得意なことはサッカーです。これからよろしくお願いします」
「ははーん、サッカー少年か、、、サッカー好きは目立ってうるさいキャラ、俗に言う『陽キャ』が多いからなー、、、」。話したこともない人を勝手に揶揄しながら、ちょっとがっかりした。
あっという間に全員の自己紹介が終わって、休み時間に入った。私は友達を作るべく、周りの席の女子とおしゃべりをしようとしていた。その時だった。
「君、学年一位??」
彼が話しかけてきた。サッカー好きの目立ちたがりは、私みたいな地味女子に関わることなんてないはずなのに。いきなり話しかけられたことと質問の内容の両方に狼狽えてしまった。私はできれば自分のことをひけらかしたくなった。だから、その質問に何で答えれば良いのか分からなかった、というか分かっていてもそれを口にしたくなかった。彼はそのまま続きを話した。
「僕は神谷ハルトです。これからよろしく」
その口調は彼特有の礼儀正しい感じ多く含んでいたけれど、奥に何か悪戯っぽいようなものを感じた。「よろしく」と反射的に返して、女子が集まっているところに行ったけれど、彼の不気味に微妙に上がっていた口角が脳裏に焼きついてしまっていた。そもそもあんな質問を初めて会った人にするなんて、デリカシーがなさすぎる。「あの悪ガキめっ」