第82話 協定①
──マゼラン病室棟、02号共同病室。
「おいロア! この女、オレのお抱えギャルズが持ってきてくれたお見舞いのケーキ全部食いやがった! 手作りだったんだぞ! ぶっ飛ばしていいか? いいよな!!」
「は~あ? 名前書いておかない人が悪いんでしょ。って言うか、くすくす、ギャルズってもしかして週末にバイトしてるこども園の女の子たちの事ですか~? お可愛い~」
「はいはい、ギャルはガールから来てるんですー。広義ではあってますー」
「ン、デルタぁ。ポンドとセナのこと同室にしたやつ蹴飛ばしてくンね……?」
「……うぅ、ぐす……、ちょっと静かにして、いまいいとこなの」
「その耀国ドラマ、もう観るの5周目とかじゃねぇの? なンで?」
「……ずっごぐ泣げるの。……ごれで7周目。主人公のお姉ちゃんが死んじゃうの……」
「おいデルタ! オレ、ちょっと気になってたのにネタバレすんなよ!!!」
「あーっはっはっはァ。ざまぁないですねぇ~!!」
「るっせぇなお前ら! 私一応重症患者なんだからな! ミッドナイト小隊のク──」
──なんだこの地獄。
ロアは共同病室の入り口で呆然と立ち尽くす。すると、もはや慣れたと言うような顔でロックウェル隊の隊長エリス・ロックウェルが歩いてきた。
長い金髪の彼女は、ロアより少し背が高い。そしてラウラにも並ぶほど美形である。サリンジャーが皆と一緒に歩むリーダーなら、ロックウェルはカリスマ性を以て皆を率いるリーダーの様に思えた。だが、意外とおっちょこちょいらしい。
「私はこいつらを学生級時代から知っている。だがな、こいつらを同じ教室に押し込めて、良かった試しがないんだ。だから同じ病室にならないように手配しようとしたんだが、あまりに怪我人が多いので、間に合わなかった……」
「そうなのか……」ロアはロックウェルの心中をお察しした。
「サリンジャーの奴は1日目で嫌気がさして別室に逃げた」
「ああ、道理で6人部屋でひとつベッドが余っているのか……」
みたところ、一番奥のポンドとセナ、真ん中のデルタとファティマ、左手前のソワカはそれぞれなんだか元気そう──怪我人らしくベッドには居るが──であった。というより重症者がこれで全員なので、ロアは思っていた状況と違い、ほっとした。
「ロア! なにほっとしてんだ! オレ女子部屋に押し込められてんだぜ!?」
「よかったじゃないか、夢が叶って」
「オレの夢なんだと思ってんの!?」
ポンドが騒ぐと皆が彼を白い目で見る。普段からナンパばかりしているので妥当である。
ロアはそんな憐れなるポンドはさておき、助けられたみんなの具合を窺おうと思った。しかしファティマがしっしと手で払ってきた。ソワカもデルタも腕でばってんをつくる。そしてポンドが「セナのとこ行け」と指すので、ロアはそれに甘えることにした。
セナは例のポンドギャルズのケーキを食べている最中の様だった。
「体調は?」
「見ての通りです」セナは両腕を掲げ、上腕二頭筋をムキっとして見せた。
「セナとはよく病室で会う気がするな」
「ですね」セナはどこか懐かしむような視線を向けた。
ロアはセナのベッドの隣にある椅子に座って落ち着く。そしてふたりは、久しぶりの会話を始めた。
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