第80話 内緒③
「ふふ、ははは」
話を聞いていたサリンジャーは笑った。
「何がおかしいのさ」
「これが2周目なら、アンタは相当のドジだなぁ。もっと早くどうにかできただろ~!」
ため息をついて病人の頬をつねるラウラ。彼女は真面目な声で返す。
「誤算があったんだ」
「どんな?」
「──ロアだよ」
サリンジャーは不思議そうな顔をした。
「まあ、空から降ってきた謎の少年ではあるよな。あいつのアーツなんかヤバいし。だからといって、それが何かに影響を及ぼすのか?」
カモメがまた鳴いた。ラウラはそちらを見た。
「魔鍵、特別な逆理遺物。そうはいっても、所詮、源流はノルニルだ。ロアにノルニルは効かない。意図してかは別としてね。彼だけが、2周目で違う挙動を見せている。言ってしまえば彼もひとつの特異点なんだ。運命の干渉を受けない存在、それがロアだ」
「まさか──。だがアイツには記憶がないだろ」
「それは落下時にリセットがかかっていると見ている。ともかく、彼だけが1周目と違う動きをしている。私には彼が何をするのかわからないんだ。──1周目のこの時点では、彼は《魔眼》に八つ裂きにされ、もう既に死んでいるはずだった」
カモメの鳴き声が遠ざかっていった。代わりに、2匹の蝶が飛んでいる。
「彼の存在は誤算だが、今この時点で、彼は決定論的世界を打ち破る、勝算になった」
サリンジャーが大きなあくびをすると蝶はまたどこかへと飛んで行った。
「話が込み入って来たな。つまりアタシは死ぬのか、死なないのか」
「どちらの可能性も同じだけある。だから私は、お前が生きる方にベットした」
フルーツバスケットからバナナをとってむきはじめ、もさもさと食べ始めるサリンジャーは、少しだけ考え、瞑目し、目を開くとラウラを見た。ラウラも彼女を見た。
「……この話は、ガキらには内緒にしといてくれ。腫物扱いはごめんだ」
わかったとラウラは約束して、サリンジャーの頬をまたつねった。
「ててっ」
「23歳か。お前もまだまだガキだよ」
「うるさいなぁ」
首から下げた《魔笛》を服の内にしまうラウラ。
「本当は、アイラの弟子のお前に渡すつもりだったんだけどね」
その言葉には、サリンジャーは首を振った。
「アンタがこの先を歩んでゆくのなら、それはセナにやってくれ」
もう一度わかったとラウラは言って、その後ふたりは他愛ない話を始めた。
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