第79話 内緒②
昔話をしようか。
マクスウェルの魔笛。魔鍵と呼ばれる、特別な逆理遺物のひとつ。特異点。
私はそれを《荒濫》のアイラ、アイラ・オーブリーから受け継いだんだ。
そう、10年前のヴィンソンマシフ攻略作戦のときにね。お前はまだ13歳だったね。あの時はかわいかったのにな。いてっ、殴るなよ。だって今は酒浸りじゃないか。
あの時お前を山に連れて行かなかったのは、それが決死作戦だと知っていたからだ。全滅はしないものの、誰かが確実に死ぬと知っていた。アイラだけね。私は何も知らなかった。
ああ、私がお前を止めたのは、それが最期の周だったからだよ。初めは何も知らなかったんだ。不思議な話かもしれないが、私は時を遡ってきた。
──マクスウェルの魔笛。なぜそんな名前が付けられているのかは、私が知りたいくらいだが、その逆理遺物としての能力をまだ話していなかったね。
魔笛は時間を司る。その笛を吹けば、時間を操作することが出来る。誰かの命を代償に。
まあ、諸々の制約やルールはあるが、時間を操る逆理遺物だと思ってもらっていい。アイラはヴィンソンマシフにこの笛を持ってきていた。いや、いつも持ち歩いていたんだ。
シリウスと私とアイラは、研究から、ヴィンソンマシフにシャンバラへの道があると信じて登った。その極地は、今まで潜ったどの極地とも比較できない程の、魔境だった。シリウスなんて3回死にかけて、そのうち1回は巻き込まれそうにもなった。あいつ、意外とファントムに堕ちやすくってさ。乗っ取られはしてないけど、危なかった。
そして、極地の中では1か月が経過した。外では数時間の出来事だけどね。ようやく浅層の急域を抜け、いよいよ深層に辿り着いた。深層から底までは5年かかった。結局、外では1日も経っていないんだけどさ。そのときにはもう3人とも瀕死だった。
アイラは底の景色を見て、嬉しそうにしたよ。一番死にかけだったのにね。その横顔を見た時、ああ、これが本物の探検家なんだって、私は思った。
そして、彼女は唐突に笛を使った。アイラは死んで、私は巻き戻された。アイラはね、自分のファントムと悪魔の取引をしたんだ。それを不履行するには魔笛で死ぬしかなかったらしい。彼女は代償の上書きをしたんだ。代償は必ず支払われるからね。
その最期の日、仲の良かった3人で、あの景色が見たかったんだって、あいつは言ってた。シャンバラでもなんでもなくて、ただそれだけの為。
はは、突然だよね。私にもわけがわからなかった。でも実際に私は、アイラとシリウスと出会った酒場、ヴィンソンマシフからちょうど5年前、祈暦1069年に巻き戻された。
それからは長かった。私は何度も魔笛を使ってアイラの死を止めようとした。この世界中にいる何人もの他の世界の自分を代償に殺して。
でも何周もしてわかったことがある。それは、──魔笛の代償で死んだ人間は絶対に死ぬ、という事実。アーツと同じなんだ、そう、さっきも言ったけど、契約の代償は絶対だ。
ともかく、私の手には今《魔笛》がある。私は遡って来たと言ったね。この私は、今から2週間後の未来から、巻き戻ってきた私だ。
──サリンジャー。私はお前の未来も見てきたよ。
だから私は、未来を変えるためにここにいる。
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