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黎明旅団 -踏破不可能ダンジョン備忘録-  作者: Ztarou
Act.1 The First Complex
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第72話 本懐②

 目を覚ました時、ロアは自分が中継基地に居ないということに気が付いた。


 すぐに警戒態勢を取ることができるようになったのは、彼の探検家としての成長だ。しかし、急激な吐き気とめまいがロアを襲った。そこにはほとんど酸素がなかった。彼は倒れ、身体を揺らす。そこに、こつこつと鉄の地面を歩く音がする。


「かっは……──」

『貴様よ。すまない、苦しませるつもりはなかった』


 静かな少女の声。視界の中に全身を暗い色のコートに包んだ少女が現れた。線が細いが、感じる乖離等級は《灰塵》以上《偽典》未満。

 少女はコートの奥に何かを光らせた。それは眼だ。まるで魔眼のようなそれは、少女の独特なモーションに合わせ一瞬輝くと、大気の組成を変えた。


「っく、がはっ、ごっ、がは……」


 呼吸ができたものの、まだ酸素は薄い。


 ロアはその相手が敵か味方かを見極めようとした。だが相手はそれを読んだように言う。


『安心していい。──我は敵だ。名は魔眼ダークロード。暗きを往き、暗きを統べる者』


 そう言った少女の顔は見えない。暗いコートが名の通り漆黒を携えている。


「──みんな、は」

『無事だ。だが邪魔をされては困る、ここにはいない。我が魔眼が生みし被造物と戦っているだろう。虚しくも命が散れば、それは惜しいことだがな』


 その声にはどこか聞き覚えがあった。


「ここ、は──」

『極地の行き止まりだ。奈落とでも言うか。もっとも雲の上であるが』


 ロアは呼吸が荒くならないよう落ち着き、周囲を見渡す。そこは、巨塔の頂上だ。しかし、ゴールデンゲートブリッジ極地は高さ1000mもないはず──。


『どうやら、あの鉄塔の終端は天空に接続されているらしい。だが、そういった知識は、本来、貴様ら黎明旅団の探検家が持ち合わせているべきだろう』


 ロアは手帳にあった《荒濫》という探検家の手記を思い出すが、そこにはこんな天空の記述はなかった。そして、サリンジャーが言っていたゴールデンゲートブリッジは成長を続けているという事実を思い出し、見当がつく。


『まあいい。──そういったことに、我は興味がない』

「目的は……なんなんだ」

『常に貴様が狙われていることに関して、思う所はないのか。いやいい。我は《偽典》のように回りくどい言い方は好まない。我はお前を殺すためにここへ来たのだ。そしてお前を攫った』


 シンジケートの目的は、初めからロアだった。陽動などではない。これが本懐であった。


「なぜ──」

『貴様が特異点だからだ。貴様だけがこの世界から逸脱したルールで動いている。それに無自覚なのが問題だが、それよりも《冷帝》の手に落ちる方が問題だ。……《偽典》は貴様を生かし利用するつもりらしいがな』

「《冷帝》……?」

『ラウラ・アイゼンバーグ。我の世界線では彼奴(きゃつ)を冷帝ラウラと呼んだ。人民を支配し、人種に優劣をつけ、差別を意図的に作り出した悪魔の王。この世界線ではそれが表には出ていないかもしれぬが、果たしてどうか』

「僕は……たとえ悪人の手に落ちようとも、この力を……渡したりはしない」

『望む望まざるに関わらず、それは実行される。言われなかったか。英語を使う人間を信用するなと。英語──古シナル祖語が問題なのではない。問題なのは、逸脱だ』


 ロアは少ない酸素でどう立ち回るべきかを必死に考えた。それでも有効な言葉は見つからない。それよりも、先に動いたのは感情だ。


「──重力津波を起こしたのは、お前たちか」

『たちではなく、我である』


 ダークロードははっきりとそう言った。事実、逆理遺物パラドックス「狡知の杖」を使ったのは魔眼だ。


「……なぜそんなことをしたんだ」

『確証がなかったからだ』


 黎明旅団が、ゴールデンゲートブリッジに来る、理由付けのため。たかがそんな理由でとロアは憤怒に支配されたが、冷静を保とうと歯を噛みしめた。だが──。


『セナと名乗ったあの娘御には悪いことをした。抵抗するのが悪い──と、言うは易いが、存外能力が高かった。我が魔眼が呼びしアグニと、身が焦げるまでやりあうとはな。我は悪感情の権化ではあるが、あのような強さにはあてられた。だから余計に焼き尽くした』


 ロアには許すことができなかった。


『(空気が──変容した?)』


 臨界点を突破するのには、それだけで、充分だった。


「僕を殺すならそうすればいい──」


 ロアはゆっくりと立ち上がる。全身を巡る《虚心》のエネルギーが出力2%を超えれば身体がバラバラになるとラウラは言った。


 それでも、この身体がどうなったとしても、目の前にいる敵対者だけは見逃せない。


「……だが、その前に償いはしてもらう」


 彼の皮膚は裂け、骨は悲鳴をあげる。急激な力のインフレーションに筋肉が耐え切れず断裂する。それでも激情は止まらない。左手にニュートラル、右手にアサルトモード。


『……ふむ、貴様は正義などどうでもいいと聞いていたが』


 彼の身体から色彩が失われていく。白銀に変わる髪と瞳。ギリギリ保たれた理性、壊れゆく身体。痛みが走る。瞳に炎が宿る。白銀に朱が差す。


 ──右腕に紅蓮の炎が宿る。


「今の望みは復讐だ。……僕は案外、怒りっぽいらしい」


 《虚心》2.9%──乖離54等級、リーサル/スカーレットモード。


 痛みと破壊と、混濁と変容が、ロアをぐちゃぐちゃにする。だが、一撃でいい。


『酸素の希薄なこの環境で炎か。嗚呼、誠に愚かな……』

「黙ってろ。来い、──ぶっ飛ばしてやるよ」

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