第71話 本懐①
『ラウラ・アイゼンバーグ。これが本当に正しい選択だと思いますか?』
アマハラ北部の国、耀国。国土は狭いが高い国力を有する国。特に観光と興行に力を入れており、エルゴーの文豪に「パンは腐るが耀国産の映画は腐らない」と言わしめたほど。耀国の西部にある高度技術国家アンテケリアからの技術供与によって発展を続けている。
そんな耀国の片田舎で、ラウラは偽典ネグエルの内臓を8割ほど焼いて、半分殺していた。現在はラウラが這いつくばる偽典ネグエルの四肢をねじりながら対話している。
「私がお前たちをしばらく野放しにしたのは、《魔鍵》を返してもらうためだよ。意味のない人死にを生むためじゃない。契約を忘れたのか」
『あなたは何もわかっていない。ROOT-01世界線が無自覚に幾つの世界を滅ぼしてきたか』
「お前が憂うべきことじゃないよ」
偽典ネグエルの腕が千切れ、血が流れる。
「へえ、ファントムの血も赤いんだ」
『その傲慢さが次なる罪を生むのですよ』
「我々に罪があるとして、大人の罪を子ども達に清算させる言い訳があるなら聞こう」
ラウラはジュネーヴへ行く前に、陽動の裏で暗躍する本体を叩くため、偽典ネグエルがロアを襲撃した日に、ロアに付いた匂いを辿った。結果として耀国で偽典ネグエルを制圧したが、堕天使の様な見た目の男は痛みに叫ぶどころか、不敵に笑っていた。
『──ははは。ラウラ・アイゼンバーグ。《マクスウェルの魔笛》を保持し者。あなたが今いったい何周目なのかは知らないが、この先に何が待つのかは知っているんでしょう?』
「どうだろうね」
『……忠告を差し上げましょう。現時点のこのROOT-01には魔鍵などくらぶべくもない、特異点が存在することを。さて、その特異点は、今どこにいる?』
その言葉はラウラをはっとさせた。その特異点が、前とは違う結果をもたらすことを、既に彼女は身に染みて理解していたというのに。
「こっちが陽動か──」
『いえ……この一件に関しては彼女らの独断です。私も驚きました』
「お前は何をどこまで知った」
偽典ネグエルはまた笑った。
『数多ある世界を覗く者が、ご自身だけであるとは考えぬように』
偽典ネグエルに時空停止結界を張り──即席であるためいつまで持つか彼女にもわからない──ラウラは《潮汐》を使って自身の身体を吹き飛ばした。耀国からアメリアへは南東に5000㎞ある。しかし距離など、ラウラにとっては些事でしかなかった。
そう、特異点が何をもたらすのかは、彼女にもわからないのだ。
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