第68話 焚火①
「極地生物って、食べられるんだな……」ロアは串をかじりながら言う。
トカゲのように小さいテッコツハシリの素焼きを囲んで食べる。中心の焚火は調理用でもあり、暖をとるものでもあり、極地生物除けでもある。
「そなの! 見た目より美味しいでしょ?」
デルタはそう楽しそうに言うが、見た目は本当にトカゲで、食べられたものではないように見える。しかしその味はうま味成分が濃縮されたような、まるで冬の日に飲む濃厚なスープの様な広がりがあった。噛みしめるたびに肉汁があふれる。
「ただの素焼きじゃあ、こうはなンねえンだぜ。デルタは学生級時代から料理ばっかやってンだ。なー」
えへへと笑うデルタ。ロアは焚火が皆の顔をちらちらと照らすのを見て、自分はまだみんなのことを何も知らないという風に思った。
もちろん彼ら彼女らの得手不得手やアーツについては極地潜行前の会議で共有をした。しかしそうではなく、ロアは彼らのバックボーンを何も知らないと感じたのだ。
そこで彼はシーカーバッグを漁り、《永劫の手帳》を取り出した。古ぼけているが、これ以上古ぼける様子のない不思議な遺物。
ロアはそれを色々な記録保管用に使用している。使い方は簡単で、書き込んで数秒待てば染み込んでインクが消える。それが記録。引き出すには、年月日を指定すれば、その時に記述した文章が浮かび上がってくるのだ。
ロアは、ひとまず今知っていることだけでも忘れぬよう書き込んでおこうと思った。そして彼は歓談を続けるデルタの目をじっと見た。デルタは気付きわたわたと慌て始める。
瞳は朱色に近い赤色。内に行くほど深紅に近づき瞳孔になる。まつげがとても長いが、色は淡い。
ほんのりお化粧をしている、彼はこれを以前本人から聞いたことがあったのだが、どこへ行くでも、かわいい自分で居たいとのこと。
それは素敵だと彼は思っている。小さな唇にリップ。髪の毛は見事な赤毛。陽の当たり方によってオレンジにも見える髪色は、彼女の性格のように明るい。
そう、彼女はとても明るい。そうしようと努めているでなく、根がひなたのようなのだ。背はセナより少し高く、歳は17歳。映画が好きで、研究している。頑張り屋。
ロアが手帳から顔を上げるとそこに書き込まれたことを皆が覗き込んでいた。デルタに関しては顔を真っ赤にして震えている。
「ロア、お前すけべな奴だな。握手しようぜ。漢はそうでなくっちゃな兄弟」
「まあまてポンド。ロアは純粋にアタシたちのことを覚えて置くために書いてるんだろ」
ナイスフォローをするサリンジャー。
「にしては描写が精緻でマニアックだけどな~」
ファティマの一撃が胸に刺さる。僕はマニアックだったのか、とロアは落ち込む。
「で、で、でで、でも、サリンジャーの言う通りかもよ? ね、ロア」
デルタが苦しいながらもフォローをしてくれるのでロアはぶんぶんと首肯する。それがより一層怪しさを生んでいるという事実にロアは気が付いていない。
ふくらはぎに書いた結界定義をより強固にするため書き直しているサリンジャー。中継基地の半径20mに張られたそれは、敵が近づけば感知する。
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