第65話 目的③
セナは、病室にひょこりとアホ毛を覗かせるなんらかの存在をちらりと見た。
サリンジャーの《定義》とポップコーンの尽力により、もうすっかり良くなっていたセナ。だが、炎を使える程回復したわけではない。よって、ミッドナイト小隊からは外れ、マゼランの病室にて療養を続けていた。
そんな中シリウスが、任務に出る前に、セナの部屋に寄って、お菓子の詰め合わせと女の子を置いていった。その女の子は、幼いローレライだ。彼女が来るのは今日で2回目である。
アホ毛をちらちら動かしているので、入ってもいいよと彼女が言うと、ローレライはひょこっと入ってきた。灰塵ローレライと顔は瓜二つだが、髪が長いので印象は違う。それに、この子には灰塵の様な激しさはない。
「今日はお話聞かせてよ! 昨日お姉ちゃんが言ってたあれ!」
セナはお姉ちゃんと呼ばれ、少し懐かしい気持ちになった。
「良いですよ。でも『極地生物の食性』なんて、面白いものでもないような……」
「シリウスおじさんが、お姉ちゃんはお話上手だからきっと大笑い必至だって」
──クッソあの野郎。セナは腹が立って上司にすべき言葉遣いを忘れていた。
「へ、へえ……。ま、まあやるだけやってみます」
「うん!」
シリウスがローレライを連れてきた日、彼はひとつの懸念を示した。
「家族を殺された人間がそのあとどうなるか。お前ならわかるだろ」
「それならシリウスだって」
「サンをつけろ。俺の場合は大人だった。だがこいつは違う。旅団にはそういう奴が多いが、お前なら正しい道を教えてやれると思った」
「私がそんな風に評価されているとは思いませんでした」
「評価はしていない。反面教師にするだけだ」
──この野郎。セナは定期的に内心で毒を吐く。
「まあ、どうせお前もしばらくすることがないんだ。子守り程度の任務、こなせるよな」
「ええ。もちろんですとも」
そして今に至る。ローレライはセナの最新研究に関する話を時々難しい顔をしながらも、熱心に聞いていた。彼女には探検家の素質があるのかもしれない。
「ふふ、育て甲斐がありそうですね」
セナが微笑んでそう言う。
「私ね、お父さんとお母さんがね、大学で先生をしてたの」
その寂しげな答えに、セナはただ、黙っていることしかできなかった。
自分が守れたもの、守れなかったもの。その重さの天秤は揺れ続けている。
***
シリウスはチョーカーでサリンジャーに連絡を入れる。
「準備は良いか」
「こちらミッドナイト小隊。オールグリーン。若干霧が濃い。オーバー」
それはロックウェル隊とスノウホワイト隊にもつながっている。
「こちらロックウェル隊。我々は問題ない。どうぞ」
「──ッヤァ。スノウホワイトだ。さァ、ぜーんぶぶっ壊そうぜ、ナァ」
いつも通りのスノウホワイトの調子にため息を吐くシリウス。中間管理職云々というポンドの発言が遅効性の毒のように効いてくる。気を取り直してシリウスは告げる。
「目標は魔鍵《ラプラスの撃鐘》。全隊、全力で行け。死ぬなよ」
それぞれの隊で発破の声が湧き上がる。
第02号極地ゴールデンゲートブリッジは、その赤黒く変色した大きな口を開け、黎明旅団の探検家たちを、迎え入れてゆく。
霧は濃くなってゆく一方だったが、天空作戦は幕を開ける──。
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