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黎明旅団 -踏破不可能ダンジョン備忘録-  作者: Ztarou
Act.1 The First Complex
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第59話 狼煙③

 デルタは潰れたみんなを見ながら、みかんジュースを手にぽわぽわと考え事をしていた。隣に誰か座っても気が付かなかったのは、お酒のせいだろうか。


「デルタ。いつの間に部隊に立候補していたんだ?」


 ロアはココアを飲みながら隣の彼女にそう聞いた。デルタはその相手が誰かあんまりよくわかっていなかった。


 デルタは近接格闘系のアーツを使うものの、確かに好戦的なタイプではなく、この決死部隊とも言えるミッドナイト小隊に居るのが不思議に思われた。


「離陸してからね、募集があってすぐに行ったの。だって、誰にも譲れないって思ったんだ。そしたら、あたしが一番早かったってラウラが来て、選抜戦無しで合格したの」


 ちびちびとジュースを飲むデルタ。そうかと頷くロア。彼は、なぜ彼女がミッドナイト小隊にこだわったのかを聞いた。


「あたし、昔っからとろかったの。頭もあんまし良くないし。ぐずでのろまって言われても、何にも言い返せなかった。重力津波で家族を亡くした時も、何もできなかった。何かできたはずもないのに、なにかすべきだったんじゃって、今も思う。そんな自分を変えたくて、ここに来たの」


 ロアはココアに手を添えて手を温めた。ただゆっくり話を聞いていた。


「でもそれで本当に変われたのかなって悩んでた時、星に出会ったんだ」

「星?」


 眠気なのか、ぽわぽわと目の焦点が泳ぐデルタは、それでも強く頷いた。


「あたしが目指す場所、っていうのかな。言葉にするのはむつかしいや。きっかけは何気ないこと。でも、そこに行きたいって、思ったの……」


 シャンバラだろうかとロアは考えていた。


 違う。


 きっとその場所は、近くて遠い。


「そう思っただけで、あたしは走り出せた。そこに行くために、ここに来たんだ」


 さっきとは違う、はっきりとした声でそう言ったデルタを、ロアはとてもまぶしく、尊いものだと思った。


「僕にも行きたい場所がある。互いに、行けるといいな」


 こくりと頷いたデルタを見て、ロアは席を立った。遠くの方でサリンジャーが吐いたのだ。しばらくぽーっとしていると、ソファの横ににゅっとファティマが顔を出した。


「星、ねぇ~」

「ひゃっ!?」


 デルタは素っ頓狂な声を上げる。ファティマの存在で、一気に目が覚める。


 ──あれ、今あたし誰と話してた……?


 ぷしゅうと湯気を出すように顔を真っ赤にしたデルタ17歳。

 にやにやしながらデルタの頬をもちもちと触り「青いなあ」と呟くファティマ15歳。


         ***


『我々は深淵に臨み、望む──』


 ロサンゼルス摩天楼の一角から街を見下ろし、逆理遺物パラドックスを取り出したその人間は、夜よりも暗いコートに全身を包んでいた。航空障害灯が赤く明滅してその人を闇夜に切り取る。


 隣にはもうひとり。


「ダークロード。やるなら、早くしろ」


 低音で鋭くそう言った女性ヴァニタスは、ざっと空間を手で切り裂いてそのカーテンの先へと消えた。そのアーツはいとも簡単に空間を操作する。


『……急く者に、道無し。──行け、アグニ』


 彼女の眼が光り、爆炎の大蛇が走り出す。


 ダークロードはそう言って逆理遺物パラドックス《狡知の杖》を床にコンと当てると、不気味な音を世界へと打ち鳴らした。その遺物は、ノルニルに強制的な共鳴を引き起こす。


 そして共鳴は、重力津波という災害を呼ぶ。


『始めようか──』


 そしてダークロードのアーツによって引き起こされた炎雷が、そのビルに文字を残す。


 ──極地にて待つ、と。


         ***


 ──BEEEEEEEEP! BEEEEEEEEEEEEEEEEEEEP!!!!


『ヤバいヤバいヤバい! サリンジャー全員起こしテ!』


 談話室のモニターにユンが出てきてそう叫んだ。ほぼ同時に起き上がったサリンジャーは略式定義を発声。

 ユンの声色で冗談ではないと理解したサリンジャー、そのサリンジャーの様子を見て緊急の事態であると把握したミッドナイト小隊のメンバー。それぞれが脳と身体を起こし、事態に備える。ユンがモニターに状況を映し出す。


 そこには破壊された防波堤の残骸があった。ロサンゼルス北部は炎の海と化していた。


『マグニチュード8の重力津波が断続的に来てるんだよっ! 次は30秒後ネッ!』


 映像を見てポップコーンはデッキに走った。今この状況をどうにかできるのはラウラか、もしくはポップコーンしかいないと、彼女は確信していた。

 ラウラは恐らく既に事態は把握している。彼女ならば事態の元を絶つために動くはずだ。それはポップコーンを信頼してのことでもある。だからこそポップコーンはその小さな身体を動かして走った。


 続いてセナが走り出した。サリンジャーが叫んで止めたが、その声は届かない。彼女はマゼランを飛び降りる。足に炎をまとい着地し、重力津波の迫る街へと走り出す。助けないといけないという燃料が彼女を突き動かしていた。


 ポップコーンは走りながら、その小さな身体の限界を感じていた。この足じゃ間に合わない。──その時、デルタがポップコーンを持ち上げた。小脇に抱えて走り出す。


「つかまっててね──」


 デルタのアーツ《破脚》。脚部の装甲、強度、筋力を120倍に強化する。蹴りと走りが音速を超える。デルタはこの時久しぶりに音を置き去りにした。


 デルタは雷撃のごとく走り、跳んで、ポップコーンをとにかくデッキに連れて行く。扉を開けたとき、時空のうねりが見えた。重力津波だ。その奔流は今にもロサンゼルスの街をなぎ倒そうとしている。


 デルタは思っていた。彼女の故郷であるボストンの街が重力津波に晒されたときに、いったい自分には何が出来たのかと──。


 だがそんなこと今は考えなくていい。今回はちゃんと間に合ったのだから。

 ポップコーンはその大津波に向けてうんと両手を伸ばす。そして、叫ぶ。


「特級防御召喚ッ──サンクチュアル・サンクタムッ!!」


 その割れんばかりの絶叫の後、空間がバリバリと光り輝いた。瞬きも許さぬ間で即座にロサンゼルスの街を包んだ聖域(シールド)は、重力津波を相殺して破壊した。


 ポップコーンの《堅牢》は絶対。破壊不可のシールドを展開する、ラウラでさえ再現ができない、唯一にして至高のアーツだ。


 サリンジャーは冷静でいるよう努めた。そしてLegionへ緊急通達を入れる。3秒後、艦内放送がかかる。


「セナ頼むから、無事で居ろよ……」


 戦いの火ぶたは斬られた。夜空は白み始め、やがて黎明がやってくる──。

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