第56話 緩和③
ふたりであれやこれやと掛け合いをしながら、地元のスーパーで、飲み会用につまみがあったほうがいいだろうといろいろ買った。デルタ用のみかんジュース、サリンジャー用のトニックウォーターも買った所で、外に出ると海岸に陽が沈みつつあった。経済特区はその名を表すように、夕暮れになっても人がごった返す楽しい街だった。
「人が普通の暮らしを出来るようにするのも、探検家の仕事か」
「良い言葉ですね」
「セナが言ったんじゃないか」
「……そうでしたっけ」
マゼランに向けて歩く。
「僕にはまだ正義がどうというのはわからない。それでも、君の言ったことが、その通りになるように地道に働いていこうと思う」
「へえ。新しい街にきて、湿っぽくなったんですか?」
「まあ、そんなところかもしれないな」
ロアがそう答えた時、街の端で誰かが行き倒れているのを見つける。ロアは先ほど呟いたことではないが、人助けしないと、と思い身体が動いた。
「セナごめん、荷物を任せる。先に帰っていてくれ」
「え? いいですけど。あ、飲み会は18時からですからねー」
ロアは急いでその人の元に走っていった。
***
「君、大丈夫か?」
ロアはその人の近くにざっと座ると、身体を仰向けにして、その人が深くかぶったフードを持ち上げる。すると、右が桃色、左が碧色のオッドアイと目が合う。
「あの……」
「……ひゃう」
長いまつげがひらりと揺れる。その子は、年頃が同じほどの女の子だった。
「えっと、大丈夫か?」
「わ、わたしは、我は……だ、大地のマナを吸収せし……、我が眼の永劫なる力を……」
ぐ~……。女の子のお腹が盛大な音を立てる。
「つまりお腹がすいたんだな?」
こういう時のロアにはデリカシーがなかった。
「あ、あ、あぐぅ……」
ロアは彼女に手を差し伸べて立たせ、街の方へと向かった。
その女の子くらいの年頃で発症する、かっこいい言葉を使いたい病状、つまり中二病について、ロアは全くもって理解がなかったので、道中女の子が「魔眼」だの「永遠なる孤独」だの言っても、ロアにはよくわからなかった。
その女の子としては空腹で倒れていたのなんて恥ずかしいことだったのだが、ロアにとって彼女は自分と似た境遇の救うべき哀れな腹ペコ少女だったので、そういう遠慮は無くして、たらふくご飯を食べさせることに決めた。ロアは彼女に手を貸してあげて、ファストフードチェーンへと向かう。
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