第55話 緩和②
「でもなんでお出かけ?」
「直下部隊編成のお祝いで、サリンジャーが飲み会やるって言うからその買い出しでさ」
選抜戦を経て、結成された直下部隊。その指揮を執るのはサリンジャーだった。今回彼女の隊の隊員はロックウェル隊と行動を共にし、サリンジャーは別動するという。
「サリンジャーの……」
「飲み会……」
総毛立つロアとセナ。
ふたりは引きつった笑いを浮かべながら、明日を楽しみにするポンドを送り出した。後ろと前を入れ替え、今度はロアがセナの背中を押した。ロアとは違いセナは非常に柔らかい。ぺたんと地面に身体をつけながら彼女が言う。
「ふー。あ、私たちもお出かけ行きます? 明日休みですし」
「それは、デートのお誘いか?」
「言っときますけど、同じ隊の中では恋愛禁止ですからね」
「そもそも、じゃじゃ馬を乗りこなす自信はない」
「あなたの筋力じゃ私は無理ですよねこのもやし」
「おい」
ふたりとも冗談交じりにそんなことを言い合った。そして互いにそれが冗談でしかないことは知っている。ふたりの目は互いではなく、遥か遠くにある、同じ場所を見ている。もしふたりがポンドのように恋や愛を謳うようになるのだとすれば、それはきっと、シャンバラの大地を踏みしめた後なのだろうと、ふたりは感じていた。
***
翌日。アメリア大陸接岸後。ロサンゼルス経済特区、第2メインストリート。ロアはセナと買い物に出た。やたらときょろきょろし周囲を警戒しているロア。
「なんでそんなにそわそわしてるんですか? 催したんなら早く言ってくださいよ」
「違うよ。デルタと出かけた時、敵襲があったのを思い出したんだ」
「ここはロサンゼルスですよ。第5支部もあります。つまり近くには、戦略級の探検家が少なくとも2人いるんです。少しくらい気を抜いてもいいんじゃないですか?」
セナのその言葉に、少しだけ考えた後、ふーっと息を吐いて、そうすることにした。今日くらいは一旦、緊張を解こう。
それからふたりは、能力の事や戦術装備の事を話しながら、街をぶらついた。ポンドのくだらない話や、デルタに習ったお化粧の話、最近活発な研究の話もした。
セナが研究の話で思い出したことを言った、それによると、ロサンゼルスとサンフランシスコが大断裂以前は600㎞以上離れていたという。そんな事があり得るのかとロアは思った。なぜなら、現在座標に置いてロサンゼルスとサンフランシスコは隣接した都市であり、目視で互いの街が見えるからだ。
そういえばと見渡したロアは、二つの街の間にある高さ千m以上ある巨大な鉄の塔を見た。街の間に湾があり、そのちょうど真ん中に今回目的とする極地がそびえたつ。
第02号極地ゴールデンゲートブリッジ。別名、濃霧の巨塔。天空作戦の舞台だ。
「これ、ほんとうはデルタの得意分野なんですが、映画を見れば過去の文化がわかります。特に昔アメリアにあった大国では映画が盛んだったそうですよ。今の耀国とは比較にならないでしょうが。ゴールデンゲートブリッジは昔大きな橋だったそうなんです」
その極地に過去の面影はない。言うなれば橋がねじれて出来上がった塔だ。
「あ、そうだ、デルタとそのうち映画に行こうと約束していたのを忘れていた」
「女の子との約束忘れるってポンドよりタチ悪いですね」
「うるさ」
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