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黎明旅団 -踏破不可能ダンジョン備忘録-  作者: Ztarou
Act.1 The First Complex
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第54話 緩和①

 選抜戦から2週間後。アメリアの大陸を目前にした現在。


 ロアがエニグマ(ドローンの姿)とマチネから調整の済んだ《エンドレスホープ》を受け取った日の夜。ロアはセナに成果報告をするため談話室に居た。


「立射で? スナイパーライフルですよ? ファティマしかできないと思っていました」


 ロアはセナに背を押してもらいながら柔軟をする。ロアは身体が硬い。


「ファティマは力を分散するのが上手いんだ。初めそう教えられていたんだが、なかなかうまくいかなくて。でも得手不得手がある。ファティマは僕とスイレンの選抜戦を見て、反動を、力を以て制す方法を提案してくれたんだ」

「つまり、《虚心》を身体に巡らせるアレですか」

「身体を強化しつつ、一撃をチャージするから、やっぱりまだやることは多いんだけど」


 ふむと考えるが、セナはロアの成長を良いことだと判断した。


「じゃあ、次にふたりで極地に潜るときは、私が前衛ですね」


 ぐいぐい背を押され、関節が痛い。加えて彼女の手は小さいので、点で力が伝わる。


「そうなるとは思うが、エンドレスホープではそもそも近距離を狙えない。千代田大渓谷ほどの広さがあれば有効になるだろうが……」

「え、じゃあ何のためにその銃手に入れたんですか。え、無駄ってことですか?」


 セナのその煽りにも思える正当な疑問はロアに刺さった。


「だ、だけど、エンドレスホープ自体、力を蓄えて放つという逆理遺物(パラドックス)としての性質があるから、打撃武器として使うこともできる。ほら、でかい棒みたいにして」

「え、前衛がふたりじゃないですか。それって無駄じゃないですか?」


 ──ぐっ。ぐうの音も出ない。


 ただ、ファティマはスコープを使わないで、目視によって近距離射撃をすることもあるというので、ロアはそれをいち早く学ぼうと思った。


「えー、えっと、そうだ。ソワカ戦、勝利おめでとう」

「露骨に話題を変えましたね。大体それ、もう2週間前のことですし……」


 艦はなおも航行中。


 ロアは背中を押されながら、自分のパートナーの偏屈な所にため息をついた。


「でもありがとうございます。あの戦闘スタイルは、ロアから着想を得たんですよ」

「僕?」


 ロアは振り向かず、セナの言葉を待った。


「あなたが《虚心》を全身に巡らせたのを見たとき、これだ! って思ったんです。《Rye》の仮想極地でも何度か試しましたが、調整が難しい分、慣れると格段に動きやすくなります」

「そっか、それは良かった」


 そう話していると。風呂あがりなのか、髪が濡れてタオルをかけたポンドが通りがかった。がしがし首筋を拭いている。


「あ、ポンド。公衆浴場?」

「おーふたりとも。そうそう。ロックウェルさんとこの第1中隊長に誘われてさ。その帰り」


 マゼランの隊員私室のバスルームには基本浴槽が設置されているが、狭いのが欠点であり、その意見書が千通を超えたので、シリウスはマゼラン南部に公衆浴場を設置することにした。艦がアマハラに在る間に、アマハラの伝統職人がぱぱっと仕上げてくれたそうだ。


「あ、ポンド。この間貸した20ドル返してくださいね」

「まだ覚えていやがった……」


 しゅんとしてアイスクリーム代が、と呟いたポンドはセナに借りた金を返した。


「ほんと。だらしなくって探検家とは思えません」

「お前の部屋も汚いじゃんか。この前デルタがでけえため息ついてたぞ」


 うぐっ……とセナが言葉に詰まる。いいぞもっとやれ。

 ロアは近くのソファに腰を下ろしたポンドをちらと見て思い出したことを言った。


「しかしポンドの試合はすごかった。《同期》のアーツは何にでも使えるのか?」


 2週間前のことだぞ、と言われ探検家は過去を振り返らない人が多いのかと彼は思った。


「まーいいや。例えばよー、俺がセナに触るとするじゃん」

「きも……」


 しゅんとするポンド。ロアは彼を励まして話を続けてもらう。


「でもセナは確固たる自分を持ってっからオレとは同化できないんだ。逆に言えば、彼我の境界がねーモンなら大概同化できるぜ。ほら」


 ポンドはソファの表面がまるで水面かのように布に溶け込んでいった。そのソファにはポンドの目だけついており、目を閉じればもはやそれがポンドとはわからない。

 ポンド対ロックウェル戦では、彼はこの艦自体と同期して、ロックウェルのアーツ《崖砲(がんぽう)》によって射出された鉱石砲をいなし、正面から衝突していた。その稀なアーツは、ラウラが彼を自分の隊に置いている理由でもある。


「やはりすごいな。明日、もし暇なら訓練に付き合ってくれないだろうか」


 ロアの向上心は高かった。ここしばらく能力を使った極地攻略の訓練はしていたが、いざファントムと戦った時、偽典ネグエルの時のように手も足も出ない危険性があると思うと、対人戦も経験しておきたいと思ったのだ。


 しかし、ポンドはうーんと悩みながら申し訳なさそうな顔をする。


「んー、明日はサリンジャーと出かけんだよなぁ。あ、でもそっちを延期すればいいか」

「そっちに行けバカ、アホ」

「延期とかボケナスなんですかこのカス」


 酷い言いようである。もちろんそれはポンドの恋路を思っての事である。

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