第53話 選抜③
──GRASH、SMASH、SLASH!
「昔から気に食わなかった。探検家の名家オーブリー家のご令嬢で、努力家で見た目もいいからかわいがられて。それなのに誰にも分け隔てずに接して。下に見てんだろ。比べる価値もないってさ。ふざけんな!」
彼女の大声と冷たい矛が、セナの炎の盾を消費させる。
「ぐっ──」
「あのでくの坊を連れてきたときはもっと腹が立った。──またお前が人の注目を集めているってさ。私が第2中隊長になるまでどれだけの努力をしたか知らないだろ!」
彼女の矛捌きは一流のそれで、サリンジャーが大鎌を振るう姿すら彷彿させた。
だがセナもやられているだけではない。
「知りません、よ。今がどうだかなんて。……あなた、私の電信ブロックしてるじゃないですかっ!」
セナは電話通信でお誕生日祝いのスタンプを送って、既読がつかないことを少し根に持っていた。
──自分が防御姿勢を取るタイミングを完全にソワカの腕になじませる。それは、彼女が元パートナーだったからこそできたものだ。ソワカは気が付かずに、攻撃を打つタイミングを操られていた。その間隙を縫った、セナの反撃。反撃にして、一撃必殺。
そして言わなければならない。
「努力は! 誰かに主張するものじゃない! あなた、そんな子じゃなかった!」
ゼロ距離での最大火力のイグニッション。
「私にも、わっかんねえんだよっ──!!」
「うるさい、ふっとべ──!」
ソワカの懐に一歩多く踏み込んだセナは下方からソワカのみぞおちに向け指を向け弾く。
轟音と共に、ソワカは宙に撃ちあがる。ロアの力を借りたほどの火力はない上に、両腕に炎を分散させているので威力は高くない。だが、セナ的にはここのところ一番の一撃だ。
反動で地面に打ち付けられたセナが起き上がる前に、ソワカが降ってくる。セナはぎゃっと声をあげる。審判役はソワカの経戦不能を判断。セナをこの戦いの勝者とした。
しかし、ふたりはぐでぐでになりながら殴り合いを始めた。その試合を見ていたポップコーンからすれば学生時代によく見た光景である。
観客からはそのアーツ度外視の肉弾戦に拍手が上がる。腹を殴るセナ、腰を蹴るソワカ。崩れたらソワカを巻き込んで投げるセナ。受け身を取ってすぐに殴りつけるソワカ。
数十分後。ぼろぼろのセナは甲板に寝っ転がって空を仰ぐ。セナに横たわるぼろぼろのソワカはぐったりとしながらも、口を開く。
「──羨ましかったんだ……私は普通の人間だから……何も持ってない……普通なんだ」
かつてセナをパートナーに誘ったソワカは、セナに憧れ近づきたいと思った。だが、近くで見るセナの異質とも言える努力と、常人では耐えられない環境にソワカの感情は歪んでいった。アンビバレントな気持ちは、ソワカを蝕んだ。そしてソワカはセナを捨てた。
セナは悲しかったが、恨んでいるというわけでもなかった。
「普通の人は、腕がこんなになるまで訓練をしたりしませんよ、ソワカ」
セナは氷を生み出す際に突き破られる腕の皮膚を見てソワカにそう言った。セナはソワカがいつも自分に勝とうとして、弛まぬ努力をしていることを知っていたから。
「うるさい……大っ嫌いだ……」
「今度、ランチでも行きましょう。久しぶりに、話したくなりました」
「それは……行く」
所々に火傷を負ったセナはふふっと笑う。
「じゃあ、電信のブロックも解除してくれます?」
「それは断る……」
ホントめんどくさい子だなぁと思いつつソワカと共に起き上がる。でも、そんなところはセナとそっくりだ。ロアももしかしたらこういう気持ちなのかもしれないとセナは思う。
ソワカの凍傷をセナの熱が、セナの火傷をソワカの氷が緩和する。そしてセナの勝利によって後に「伝説の痴話喧嘩」と言われる第三回戦が幕を閉じた。
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