第50話 返礼
ロアとセナは悩んでいた。
「絶対お酒ですよ。プラウディテウイスキーにしましょう」
「あれの正規価格知ってるのか? この間ラウラの部屋で見たのは──」
「!?!? 私たちの年収じゃないですか!!!!」
「土台無理な話だ。それに、サリンジャーならあれを水の様に飲み干すぞ」
「うっ、嫌な想像ですね。でも割とその通りかもしれません……」
セナとロアはマゼランの甲板にて相談をしていた。それは、サリンジャーがシリウスの厳格な対処も振り切って命がけで自分たちのことを助けてくれたことに対する感謝を、何かしらの方法で伝えたかったのだ。
そこに折よく通りかかった何も知らないデルタ。
「あ、ふたりとも。おはよ~。天気気持ちいいね」
デルタもショックからすっかり立ち直り、ロアの怪我も治った頃合い。というかロアはデルタの目の前でラウラにぐちゃぐちゃにされているので、それが元気の証左でもある。
「日差し強くないですか? 空に居るとより近く感じます」
「わかる! あ、日焼け止めクリームあるよ」
「あ、僕ほしい」
「ロアって肌敏感ですもんね……」
デルタは顔を真っ赤にしながらロアの手の甲にクリームを出してあげる。
「ありがとうデルタ。君は救われてばかりだ」
ロアはいちいち大げさである。
「へへ……。お役に立てて何よりだよ」
そう言えばと思いついたようにデルタが顔を変える。
「ふたりともポップに酔い止め貰った?」
「私は前の分が残っているので」
ロアは何のことだろうとぽかんとしていた。
「えっとね、離陸してしばらくは良いんだけど、一日経ったくらいかな。多分日差しとか気にならないくらい船酔いになるから、お薬あるといいよ~」
「ああ、それなら大丈夫だ。僕はお酒にも酔わないし、割と丈夫らしい」
「そっか! たくさん飲んでたもんね。なら大丈夫か」
あっ、と思い出したようにセナはデルタの方を向く。
「実は今、サリンジャーにこの間のお礼をしようと話し合っていたんです」
「極地の? サリンジャーならそんなに気にしてないと思うけどなぁ」
「それでも僕らは救われたから、感謝を伝えたいなと」
ふむふむと考えたデルタは、頭上にピコンと豆電球を浮かべ、にこっと笑った。
「手作りの耀国料理とかどう? サリンジャーの故郷の料理!」
それを聞いたセナとロアの顔はぱぁっと明るくなる。
「それにしよう!」
「素敵ですね!!」
そしてセナとロア、ついでにデルタは艦内市場に向かってグゥァンマン火鍋の具材を買うとそのままの勢いでサリンジャーの部屋へと突撃した。
「なんだなんだ揃いも揃って」
筋電義手のトレーニングをしていたサリンジャーが汗を拭きつつ三人を見やる。
「サリンジャー、まだあなたに助けられたことのお礼を出来ていなかった」
「だからデルタの案を貰って、サリンジャーの故郷の料理を作ってみました!」
「えっと、あたしはつきそい!」
サリンジャーは彼女らが手に持つ鍋を見て、耀国火鍋をやるんだなと察した。そして、少し懐かしい気持ちになりながら、ふふっと笑う。
「セナもロアのことも、アタシはかわいい妹弟だと思ってる。そいつら助けるのに、貸し借りなんてねーさ。でも、火鍋でテンションがブチ上がったから食う」
セナとロアはおもはゆい気もしながら、それを喜んでもらえてよかったと思った。それからはデルタが持ってきた映画を上映しながら鍋を作ってつつき、匂いにつられて次第に旅団員も増え、結局酒乱による酒乱のための酒乱パーティーへと変貌するのであった。
だが、サリンジャーにとってそれが一番の贈り物だったのかもしれない。
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