第39話 玻璃②
断続的に銃声が鳴る部屋。射撃演習場でファティマはロアの射撃指導をしていた。
「この小さい銃ですら手も肩も、節々が痛い……」
ロアは拳銃から離した震える手を見る。
「そンな状態で《エンドレスホープ》を撃てば肩が吹き飛ぶぜー」
ファティマは後ろの席でジャガイモチップスをかじりながらそれを見ていた。
「君は僕よりも細くて小さく見える。だが、どうしてそんなに大きな銃が扱えるんだ?」
ロアが指した先にはファティマの身長を優に超える巨大な銃、対物スナイパーライフル型逆理遺物、エンダーシリーズ06番《ワールドオーダー》が鎮座している。
型自体は遠く古いものだったが、それはあくまで逆理遺物。使用者の感情をエネルギーに変換するというノルニルと同様の性質を持ち、その威力は減衰なく射出される。
ロアは実際にファティマがそれを撃っている所を見せてもらったが、たった0.2%の出力で、ファティマ用の鋼鉄的が打ち抜かれた。
それを扱うファティマは平然としているので、ロアは驚いた。しかもスナイパーライフルを立射で使うのだ。動揺したが、極地でいちいち寝転んでられるかと言われ、それはそうだと思った。
「力の分散だよ。ンま、ロアの場合は反動に対して力で応じようとしてンだ。わかるか」
「だが踏ん張らなければ吹き飛ばされる」
「ンあー。力を入れるのは間違ってないが、場所が違うのさ。丹田ってとこだ。ここ──」
ファティマは立ち上がったかと思えばロアの元に歩いていき、下腹部を思い切りアッパーで殴りつける。「ぐぁっー!」雑魚三下のような声が漏れるロア。
「そこをよく覚えンだ。ンあ。まあ、慣れだよ慣れ。あ、もっかいやっとく?」
スコンっと後ろからしばかれるファティマ。振り返るとそこには呆れ顔のデルタ。
「なんでこの船に乗ってる人ってみんな物理で解決しようとするかなあ……」
「同感……だ……」お腹を押さえながら地に臥せるロア。
頭をぽりぽり掻いて面倒くさそうな顔をしたファティマはため息をつき愛銃を取りに行く。
彼女は色恋に関することをいじって遊ぶのは好き──下衆だから──だが、それを本気で邪魔するほど野暮な人間でもないのだ。
そう言った点で見れば15歳にして様々達観していると評価できる。
「じゃ、ロア。力の入れ方、抜き方覚えろよ~。ン、デルタは香水振りすぎな」
「なっ!?」
ファティマは射撃場を後にし、デルタは自分の匂いをスンスン確かめる。
ようやく起き上がったロアはよろよろと、後方のベンチに座り込む。
「おはよう……デルタ……」
「お、おはよう! ロア」
ぎこちなくもじもじするデルタ。拳を食らってそれどころではないロア。だが、先に仕掛けたのはロアだった。
「あれ、どこか行くの? いつもより綺麗だ」
セナなら、だったらいつもは小汚いのかとお小言を言う所だが、デルタはロアがそう言ってくれたことがシンプルに嬉しかった。
「え! あ、うん! セナがね、急用できちゃったみたいで、ロアの案内をお願いされたの。服とか日用品とかを揃えたいんだよね?」
説明を聞いてなるほどと合点がいったロア。
「そういうことか、うん。じゃあ、案内をお願いしてもいいかな」
「うん!」
デルタは犬歯を見せにこっと微笑んでみせた。ロアは彼女を少し犬っぽいなと思った。
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