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黎明旅団 -踏破不可能ダンジョン備忘録-  作者: Ztarou
Act.1 The First Complex
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第37話 装備③

「色ボケマチネ!! 引きこもりエニグマ!! 久しぶりですね! ふたりそろってなんて珍しい」


 ロアは状況がよく理解できていない。だがセナの知り合いという雰囲気なので、彼女が説明をしてくれるのを待つ。しかし待つこともなく向こうから声をかけてくれた。


「私は工廠と工匠部門の代表をやってるマチネだよ~。セナのいっこ先輩で~、まあそういう序列は特に気にせずマチネって呼んでね~。ふふ、よろしくねぇ」


 やたらと甘ったるい声で距離が近いマチネ。セナは薄い目でマチネを見る。


「ボクはエニグマというのだ。そこの色欲の奴隷と同期で、セナの先輩なのだ。システム関係ならボクに任せてほしいのだ。よろしくなのだ!」


 ドローンが話し終えて、本体から生えているアームの様なものをふりふりとする。ロアもそれに対し手を振り返す。


「おふたりの言う通り、準備級(アンツ)時代の私の先輩です。残念ながら栄養が脳ではなく胸に行った方がマチネで、ザ・パーフェクト・インサイダーこと引きこもりハッカーの方がエニグマです」


「言い過ぎなのだ」

「言い過ぎよねぇ」


 随分ひどい言いようである。ただ、それも当然。ふたりはそれぞれ、工学や機械学、情報学に於いては旅団内でもトップクラスに精通しているが、その他の学業が酷い成績で、一時期は年下のセナに家庭教師をしてもらっていたのだ。


「何か色々背景がありそうだが、怖いので訊かないでおくよ……」ロアは気を使える子だ。

「ねえセナぁ。この子って噂の流れ星くん?」


 人の口に戸は立てられないなとセナは思ったが、しかしもう彼の存在を隠す必要もないのではないかと感じ始めていた。それは、もうロアは自律し、意思によって選択を行うことができるからだ。


「そうです。でも馬鹿と色ボケが移るのであんまり触らないでくださいね」


 セナはマチネを引っ張り、いつの間にかまたロアに密着を始めていた彼女を剥がす。


「まったくマチネは脳がピンクなのだ。存在が卑猥なのだ」


 実際、距離感のおかしいマチネに勘違いして熱を上げ、撃沈していった男性隊員は多い。ポンドは42回ほど撃沈しているが、蛾は誘蛾灯を避けることができないのである。


「エニグマはエニグマで、あまりに賢いので教授達がみんな自信を無くしてしまい、あげく引退させましたけどね。またの名を『賢人虐殺者』」

「人聞きが悪すぎるのだ」


 ロアはナチュラルに触ってくるマチネ──彼女に悪気はない──を避けて挨拶をする。


「よろしく、マチネ。それとエニグマも。僕はロア」

「空から降ってきたなんて不思議だね。どんな味がするのかしら」


 その短文に戦慄するロアは一歩下がる。


「味は知らないけど、犬派だということは知っているのだ」

「えっ、なぜそんな限定的な情報を……」


 色ボケマチネからロアを守りつつため息をつき説明をするセナ。


「この人に隠し事は無理ですよロア。エニグマのアーツ《複眼》は2万4000個の仮想眼を同時に動かしているんです。マゼランのあちこちどころか世界中を見ているんですよ。引きこもりで研究室から外に出ないくせにやたら外のことに詳しいんだから……」

「それはすごいな。プライバシーの心配はあるが」ロアが言うとドローンは誇らしげに言う。

「安心して欲しいのだ! ボクは研究にしか興味がないのだ。だから、たとえセナが毎日つけている日記の中にロアのえっ──」


 セナが緊急でドローンを掴んで地面にたたき落とした所でエニグマは沈黙した。だがどこからか別のドローンが飛んでくる。


「な、なんでもないのだ! ボクは何も知らないのだ!」

「それでいいです」


 ドローンとはいえ先輩を容赦なく……。ロアは少し引いた。


「ところで何をしにきたんですか先輩たち」

「そうだったのだ! ロア君が戦術装備を必要としているというので、それならボクが作ろうと思ったのだ。ひとりは寂しいのでマチネも呼んだのだ」

「実際に作るのは私の方なんだけどね~」

「僕の装備を? いいのか?」


 こくこくと頷くエニグマのドローン。側面には02号と書かれている。


「見ただけで震えてしまう強面のシリウスに向かって、シャンバラを目指すと宣言したのをみて感動したのだ! ボクは人が怖くて外に出られないけど、ロアくんに想いを託したいのだ!」

「私たち技術職ってねぇ、夢とか野望があるヒトが大好きなの~。だから手伝わせてね」


 ロアは胸に期待が膨らみ、喜んでその申し出を受けることにした。未だ日記の事をばらされそうになった件で不服そうにしているセナは、彼女らの腕が本物だということはちゃんと知っているので、ここは素直に厚意を受け取ることにした。


「それで、素体の逆理遺物(パラドックス)はどれにするのだ?」


 ロアは少し悩んだが、先ほどセナが選んだ《エンドレスホープ》を手に取った。それから少し触ってみて、感覚、重量を試す。そして頷いた。


「これにするよ。セナが選んでくれた物なら、きっとこれが僕に合うはずだ」

「了解なのだ! 2、3日もらうのだ」


 セナはそのロアの言葉が少し嬉しかった。ロアは自分をちゃんと信頼してくれている。


「よかったですねロア。そうだ! 渋谷大市場の屋台に串焼きでも食べにいきます? 東北産の地鶏がとっても良いんですよ」

「賛成するよ。ちょうど今日はポンドが出張で居ないんだ」

「ボクは牛串がいいのだ」

「私はぁ、モツかなぁ」

「自分で買え」


 先輩にどんどん当たりが強くなっていくセナを見たロアは沈黙した。


 結局セナはエニグマ──ドローンが届けた──の分とマチネの分の牛串とモツ焼きも買ってあげた。

 これで頑張れるのだ! と言ったエニグマドローンは、購入した《エンドレスホープ》を受け取ったマチネと共に、工房へと戻ってゆく。


 それから、ロアとセナは19等級攻略のお祝いということにして、もう少しだけマーケットの出店を回っていくことにした。ふたりだけで。


 夜風が少し、くすぐったい。

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