第35話 装備①
硝煙と死臭が漂う戦場、響く銃声──。
「セナ! 13時の方向、距離2m、デカ鉄板だ! 3、2、1──」
「13時ってなんですか!? 馬鹿なんですか! わっ──」
グンと背側に腰を曲げて、回転しながら飛んできた鋼鉄の板をぎりぎり避けるセナ。
「仕方ないだろ、こっちはこっちで精いっぱいなんだっ! ぐっ」
身長ほどの棒をぎこちなく使いながら次々と飛来する岩石を跳ね返すロア。
互いが追い詰められ、背を合わせた時、ふたりの間に勘が冴えわたる。
「……これじゃ埒が明きません。ロア、2日前の演習を覚えていますか?」
「ああ。僕ら史上最低の連携作戦だろ」
「ではその感想戦のことは覚えて──」
「なるほど。言いたいことはわかった」
一瞬で意識が伝導する。
セナとロアは背中合わせで手のひらを合わせる。
「君はいつも早すぎる」
「あなたはいつも遅いんです」
3、2──。
カウントちょうどにロアの中で、セナから受け取ったエネルギーの循環と増幅が完了しセナにフィードバックが帰る。
セナの乖離等級は一時的に20等級まで引き上げられ、砲身となる彼女の腕は右腕を前に、左腕を肩越しに後ろへ向ける。
左腕はロアが照準を合わせ、ふたりの呼吸がぴったり同期する。セナは指を弾く──。
「イグニッション!」
パチンッ、チカチカッ──VAAAAAAN!!!!!
爆音と爆風が着弾を知らせる。セナの火炎はロア側に居た岩石魔人ロック・シン──ユンが命名した──とセナ側に居たアイアンジェノサイダー──こちらもユンが命名した──を見事に破壊した。
セナとロアは下で合わせた手でハイタッチをし、新型トレーニングルーム《Rye》の試運転を何とか攻略した。それを見たユンは不服そうだ。
『オマエたち~! ユンの造ったロボたちを滅茶苦茶にしたナぁ~! このぉ~(ぴえん)』
明るくなった部屋のモニターには涙目でぴこぴこ跳ねるユン。
「そう言われても……やれるだけのことをやったまでだし……」
「第一、このプログラム殺意高すぎるんですよ! 今ので何等級ですか?」
『ふえー……。19等級だよう……。絶対泣かせてやろうと思ったのにぃ……(ぴえぴえ)』
セナとロアは溜息をつく。それを傍で見ていたサリンジャーはふたりの肩をぽんと叩く。
「まあ、いいじゃないか。少なくともお前達ふたり合わせれば乖離19等級の極地とは渡り合えるってわけだ。それっていい事なんじゃねーの?」
Ryeの基幹システムはサリンジャーの《定義》によって作られている。そこにユンが手を加え、あらゆる戦闘局面、極地環境を再現する部屋が作られた。
元々は極地に行くことを許可されていないエージェント──探検家資格を持たない、もしくはその他に重要な任務を持つ旅団員等──が研究調査シミュレーションを行うためのものだったが、サリンジャーの定義構築による支配空間に似た性質の領域を作れることから、トレーニングルームとして改造された。
『ちなみにロア氏さー、その棒なにネ?』
ユンはロアが持っていた長物を指す。
「《虚心》は人のノルニルに干渉して力を増幅したり抑制したりする能力なんだ。でも、裏を返せば一人で何もできないということになる。これは僕自身が戦うための棒だ」
『趣旨は理解したけど棒は棒なんだネ……(草草の草)』
その言葉にサリンジャーが補足した。
「バックアップ系の探検家って単独潜行が出来ないんだよ。まあ、極地は基本的に単独潜行するもんじゃないが、万が一遭難でもしてひとりになったとき、普通に死ぬだろ?」
「僕は死にたくない……。それで相談したらサリンジャーがくれたんだ。ファントムや極地生物とこれで戦える。自身の力を充填すればもっと……まあ使いこなせればの話だが」
「へえ、それ、何の棒なんですか?」セナが無邪気に聞く。
「ああ、シリウスの部屋の物干し竿だよ」平然と答えるサリンジャー。
なんでそんなもん持ってんだ。言うまでもなく全員がそう思った。
「まあ、お前たちの成長──微々たるもんだけど──も見れたし、今日は終わりにするか」
サリンジャーは尻のポケットからスキットル──湾曲した携帯用の小型水筒──を取り出した。それをぐびぐびと飲み始めると、彼女は満足そうな顔をした。日々繰り返されるサリンジャーの過酷な訓練だが、彼女が酒を飲むのが終了の合図となっていた。
彼女も失った左腕の代わりに、アーツでの制御が可能な筋電義手をつけ、動かす訓練をしていた。スキットルを取る仕草があまりに自然だったことから、もう彼女はその試練を突破したのだろう。
セナもロアもその魂の強度を見て、見習わねばと感じた。
それからセナはふと、ロアが持つシリウス棒を見て思い付きを言う。
「ねえロア。戦術装備、色々試してみます?」
「戦術装備?」
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