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黎明旅団 -踏破不可能ダンジョン備忘録-  作者: Ztarou
Act.1 The First Complex
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第34話 正義③

「アメリア共同体管轄、黎明旅団第5支部から連絡です。《叡智》のソフィア様より、至急救援を送られたし、と。詳細はこちらに」


 スイレンは端末をスライドし、部屋にホログラム画面を展開する。


 それに一瞬目を通しただけで全て把握したラウラはスイレンにさっと目線を送る。


「わかった、折り返し連絡するよ。それと十中八九、もうすぐ艦を飛ばすことになるから、関守(セキモリ)家の総大将とシリウスに伝えておいて」


 スイレンはわかりましたと答える。


 部屋を出る前にスイレンはラウラを見る。


「ラウラ様、目的地設定はどう致しますか?」

「──ロサンゼルス。ちょっと長旅になりそうだ」


 そう言って彼女は窓の外を眺める。スイレンが部屋を後にすると、ロアはラウラに聞いた。


「遠征か?」

「そう。ちょっと隣の大陸までね」


 それから無言の時間が少し続き、ややあって、バタバタと急ぐ足音が聞こえノックなくシリウスが入ってくる。ロアの事は眼中にない様子だった。


「おいノックしろよー、乙女の部屋だぞー」


「何が乙女だ。……もう2年半もエンドに潜ってたあの《叡智》がその探索をやめて地上に帰ってきたと思えば、お前に緊急通信って。それにお前は艦を飛ばすとか言い始める。ラウラ、全部自己完結するな。ちゃんと説明しろ」


 シリウスは真剣な表情で飄々とするラウラに詰め寄る。


「落ち着け」ラウラの目はシリウスを捉える。


 シリウスは目を逸らす。


「……ガキ共にするようなことを俺にするな」

「同期ってからかいたくなるんだよね、あははは」


 シリウスとラウラが同期と知るロア。ただ、ふたりの放つ圧力(プレッシャー)を考えると納得できる。


「《シンジケート》が動いた」

「──こちら側へ来たファントムのゲリラか。……だがゲリラなんて過去にもいくつかあった。アーツホルダーが身体を乗っ取られ、蛮行に走る。それはセレティア協定が厳格に取り締まってきたはずだろ」


 ラウラはちらりとロアを見る。


「シンジケートの《灰塵》はロアのもとに来た。報告によればアメリアでもファントムが動いたらしい。ソフィアが巣穴から出てくるほどだ。情報は確かだろう。問題なのは、それを評議会が関知していないということだ。あの婆さんが私に情報を求めた事なんてないだろう」


 シリウスは考え込む。


「それは今までにない規模で、水面下に行われているということか」


 ラウラは頷く。


「奴らにはシャンバラに行って悲願を叶えるという目的がある。悲劇を腹に抱えるあいつら(ファントム)ならなおさら願いの成就を望む。でも私たちとその方法は大きく異なる。連中は手段を選ばない。それに、ロアを手掛かりか何かだとでも思っているのかもしれないね」


 シリウスがロアを一瞥する。


「お前……こいつを餌にするのか?」

「そう。でも()()芽は摘んでおくべきだろ?」


 ロアはその悪いという言葉に反応した。彼は今、灰塵ローレライとの邂逅を経て、善悪というものが分からなくなっていたのだ。


「どこでやるんだ」


「まずはアメリアに渡る。呼ばれているみたいだし。それに大陸には《魔鍵(まけん)》のひとつがある。出来過ぎている気がしないでもないが、今回は招待を受けよう」


「《魔鍵》だって? ……冗談はよせ。どいつもこいつもおとぎ話だ」


 聞き馴染みのない言葉にロアの耳が反応する。


 ──魔鍵?


「ギャンブルはトランプだけにしろ」

「そんなに否定しなくてもいいじゃないか」

「こいつはまだガキだ」

「彼はもう探検家さ。探検の女神様と契約のキスをした。もう後戻りは許されない」


 シリウスとラウラの会話は平行線をたどった。だがロアには、自分の意見をちゃんと言えるという所があった。


 ロアはゆっくりとラウラの肩に触れた。そして一つだけ質問をした。


「ラウラ、あなたはそれを『正義』だと僕に押し付ける気はあるか」


「私に正義はないよ。いつの日もあるのは信念だけだ」


 ラウラは初めて出会った日のようにロアを見つめた。

 少しだけ考えると、ロアは頷いた。


「わかった」


 ロアにもこれが正義だと言える確固たるものはなかった。


 灰塵ローレライは悪だったか、それとも善だったか。自分は悪か、善か。それがわからない。


 ただ、何も持たないロアが持つ唯一の自我は、自分が何者なのかを知りたいという欲望。

 シャンバラ到達はきっと自分の何かを明らかにするだろう。セナとの旅もきっと自分を定義するだろう。

 そして、ファントムという存在を前にして、己が抱く感情を知りたいと、彼は思った。その答えが何でも。


 ラウラは一見傲慢にも思える彼の我欲を評価していた。探検家はかくあるべきだ、と。


 正義なんかよりも、欲望を優先する彼を、ラウラはただ見透かすように眺めた。


「はは、そうこなくっちゃ」


 ロアが契約をしたのは女神か悪魔か。それは彼にもわからない。ただ、探検の悪魔という者が居るのだとすれば、それはラウラと瓜二つなのだろうと、ロアは思った。


 シリウスは諦めたように静かなため息をついて、黙って部屋を出て行った。最後にスイレンへ一言呟いて。


「スイレン。艦内放送の準備だ」


 ラウラはんーっと伸びをした。そして窓を見て言う。


「じゃあ行こうか。──正義ごっこをしに」

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[一言] 悪魔と神は表裏一体。 いつかは裏返る日は来るぜ。
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