第30話 仲間③
なんのまとまりもない、ただ騒ぎたいだけの隊員が続々と集まった謎の集会は夜中の25時を過ぎてもいまだ盛り上がったままだった。
その間ロアは酒とはつゆ知らずに飲んでいた度数60の飲み物を「おいしい水だ」と発言し、多くの酒豪探検家──主に泥酔したサリンジャー──から酒飲みバトルなるものを挑まれ、ポップコーンが慌てて止めるまでその王座に君臨していた。
サリンジャーはというと、吐いた跡を辿っていけば彼女に行きつくと言われる伝説を体現して見せた。ポップコーンからの好感度が2%下がった。
セナは同期のファティマに、今回あった出来事を話していた。ファティマは特に量子生物学を専門とする為、極地の底における特異点とひずみについて興味を抱いた。知的な話をできる少ない友人のひとりである。
学生級で深部に降り生還したのは──自力ではないが──恐らく旅団では初めてのことだった。
セナはそれを得意満面にするのではなく、シリウスに言われた通り驕らず、情報を共有しようと思った。
ゲロを吐きながらも、それを遠くから見守っていたサリンジャーは、少しずつ成長してゆく弟子のことを誇らしく思いながらまた吐いた。
ポップコーンは掃除で忙しく、ユンはユンで参加者が明日機能停止になることを見越して代行プログラムを組むので忙しくしていた。両者、よく喧嘩するが、頑張り屋なのは似た者同士である。
ラウラは少し考えるような顔をして会場に現れたが、すぐに会場の空気を掴んで楽しみ始めた。その表情は裏表のない、いつものラウラだった。
しばらくして彼女の隙が出来たときにロアはだる絡みしてきたサリンジャーを──一応命の恩人だが相当だる絡みがウザかった──床に捨ててからラウラの元へ行った。
「ラウラ。その、約束を守れなくて、すまなかった」
「《破戒》の私が、誰かに約束を守ることを強いると?」
「え、あなたは約束守らないのか?」
「守ることで守りたいものが守れるのなら守るよ」
ロアはなんとなくレトリックで誤魔化された気がしたけれど、それがとても正しいことのように思えた。
「法は持っていてもいい。でも、法の上に己が信念を持つことを忘れないようにね」
ラウラの言葉は珍しく丁寧だった。ロアはこくり頷く。
「ラウラ、僕は力をもっと制御したい」
ラウラはロアの背をぱしんと叩いた。
「できるさ。君はもう黎明旅団の隊員なんだから」
それからラウラは酒を片手に、今までした様々な極地の話をしてくれた。その話はロアを興奮させ、前向きにさせた。ラウラはロアの笑顔を見る。
「──世界っていうのは、本当に美しいものなんだ」
「良いことを言うな。酒に酔っているのか?」
「あははは。なに、古い友達の言葉さ」
そういったラウラは珍しく少し寂しそうだった。
ロアはラウラに酒を注ごうとボトルを探した。だが、それは意味がない。
振り返った先に、もうラウラはいなかった。
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