第29話 仲間②
「ローレライ、もう体調いいみたいですよ」
廊下を歩くセナは隣を歩くロアにそう言った。
「それは良かった。サリンジャーが居なければ危なかったな」
「ええ、ほんとに。というか、あなたあの時いっそ自爆しようとしてましたよね……?」
ロアはなんのことやらという顔をする。
「もう、冗談ではないんですよ。……シリウスの言っていたことは正しい。私たちは未熟です」
「うん、そうだな」
ふたりの目は真剣だった。極地に足を踏み入れた。そして、敵と対峙した。己とも向き合った。往くべき道が分かった。あとはそれを進むだけだ。
「そういえば、今朝の入団試験はどうでした?」
「筆記は良くできたと思う。今は結果待ちなんだ。格闘試験の相手がサリンジャーじゃなければもっといい評価が取れたはずなんだが……」
「サリンジャー、無許可の単独潜行のこと滅茶苦茶怒ってましたね……。ご愁傷様です」
両手を合わせて拝むセナ。微妙な顔になるロア。
「そういう君は昇級試験はどうなった? セナは昨日だったんだろう」
セナは傷の残った右腕を見る。セナはサリンジャーに治療してもらうとき、見た目は戻らないと言われ、それでいいと答えた。
その痛々しい傷跡は、きっと彼女に痛みを与え続ける。痛みとは、今自分がどこにいるのかということを理解するためのコンパスだ。
「まだ紅蓮セナとは喧嘩中でして……結果は不安ですね」
「紅蓮セナ?」
セナは胸に手を当てて言う。
「私の別の可能性。ファントムです。紅蓮の様な炎を使う、ほんと困った子です」
「『紅蓮の様な炎を使う困った子』か。まるで君だな」
「殴りますよ」
「ごめん」
ふふっとセナは笑う。
「でも、そうです。全部私なんです。だからいつかは受け入れて、手をつなぎたい。この炎を、自分のものにする」
「僕は応援するよ。君ならできる。きっと。また詳しく話を聞かせてくれ」
ありがとう、とセナはロアに微笑んで、軽く肩で小突く。
「そういえばもうすぐ時間だな」
セナがコンコンとチョーカーを叩くと、彼女の視界の端に時刻が示される。
「ですね。談話室でいったい何の用事でしょうか」
ロアはマゼランの中をまだすべて周りきっていなかった。観測船マゼランは元々オラシオンの中央大陸に広がるプラウダ正義帝国のもので、南西部にあるトロピカランドからの食糧を輸送する巨大な貨物船を黎明旅団が盗んで改造したものだ。
その大きさは小規模の街が丸々収まるほど。実際、マゼランは小規模都市程度の機能を有していた。数日で周りきることは難しい。
ロアはその中で旅団員が集まる憩いの場として談話室がいくつかあると聞いており、ひそかにそれを楽しみにしていた。
そしてその談話室に、指定した時間に来てほしいと連絡があったのだ。
「ここか?」
先進的で合理的な構造を持つ多くの区域と違い、そこだけは木目調があしらわれ、入り口は重厚な木製ドアが採用されていた。
セナの首肯をみて、ロアはその扉を開く──。
PAN。PAN。PAN。
その音にラウラの能力を思い出したロアとセナは心臓がまろび出るかと驚いた。しかしそれは、クラッカーの音だと遅れて気が付く。
ポンドとデルタは「せーのっ」と息を合わせる。
「セナ、専門級昇級&ロア入団試験突破おめでとう~!!!」
そこにはロアの同室ポンド、セナの同室デルタ、ファティマ、サリンジャー、ポップコーン、ディスプレイにユンが居た。
「……これは?」戸惑うセナ。ポンドが前に出る。
「シリ兄は冷たいこと言うけど、ほら、お前らってすっげー頑張ってたじゃん。だから、それが報われたお祝いしよーと思ってさ! 結果先に聞いてごめんな~。どうしてもいちばんにお祝いしたかったんだ!」
ロアはポンドという友人を一生大事にしようと思った。
「アタシはタダ酒飲みに来ただけだ」
──この酒カスが、とセナは思った。
『ともかく~コイツらはなにかにつけて騒ぎたいだけなんだゼ~! まっ、ユンたゃ的にも楽しいのはあり寄りのありアルネ~(酒盛り大しゅき~)』
「ということで~」
デルタが言うと、ポンドがふたりにグラスを渡す。
「えんもたけなわですがかんぱーい!」
『かんぱーい!』皆の声が続く。
サリンジャーはデルタによる「えんもたけなわ」の誤用を指摘する前に仕上がってしまっていた。
開始時点でポンドのジャケットのフードにゲロっている。それでもポンドはサリンジャーと話せて楽しいと感じているので恋は盲目である……。
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