第28話 仲間①
救助されたローレライは小さく寝息を立てて穏やかに眠っている。
脈をとってから色々と紙に書き込んだポップコーンはこくりと頷いて、隣にいたサリンジャーに向けてぐっと親指を立てた。
ポップコーンの部屋に安堵のため息が漏れる。
「ノルニルが腕に深く刺さったことの心理的影響はもうちょっと見なきゃなんだけど、怪我とかは定義構築のおかげですっかり良くなったよっ! えらいっ!」
ポップコーンはくるくる椅子にのぼってサリンジャーの頭を撫でようとしたが届かないのであきらめる。
『ぷぷぷー。もうサリンジャー氏が医療部門の主任になった方がいんじゃネ~(ジョーク)』
ユンの暴言にぷんぷんと怒りをあらわにするポップコーンを押さえるサリンジャー。
「アタシはあくまでポップコーンの指示通りに定義しただけだ。医療なんてからきしさ」
「もー! ユンちゃんだってLegionがおっきなミスしたじゃんっ!」
結局、Legionが示した第19号極地千代田大渓谷にはなにもなかった。
『あーっ! いーけないんだっいけないんだー。言っちゃいけないこと言ったネポップ氏! でもほんとおっかしーんだよネ、なんであんなミス起こしたんだロ(???)』
はぁ……、と重い溜息をつくサリンジャー。
「(こいつらほんとそりが合わないな……チビ同士仲良くしてくれ……)」
サリンジャーはベッドに軽く腰掛け、すやすや眠るローレライの頭を撫でてやった。
エルゴーに派遣されている遊撃通信会社シグナルの旅団員によると、幼いローレライの実家は灰塵ローレライによって破壊され、塵のひとつも残っていなかったという。両親の行方は不明。
──あの時と同じだな。
10年前のヴィンソンマシフ攻略作戦。セナの母《荒濫》のアイラとシリウス、そしてラウラの3人であの地獄へ向かった。
当時アイラの弟子でバックアップクルーだったサリンジャーも作戦への参加を申し出た。
だが、アイラはそれを決して認めなかった。シリウスは許可しようとしたが、今度はラウラがそれを拒んだ。
大抵のことには太平楽としているラウラが珍しく見せた厳しい表情だった。
サリンジャーは現地の集落で待っていた。シャンバラへの鍵が見つかると信じて。だが、彼女のもとに戻ってきたのはシリウスとラウラと、狂った羅針盤だけだった。
ラウラとシリウスは今もまだセナと真っ直ぐ向き合えないでいる。ふたりの心は、未だヴィンソンマシフの底に取り残されているのだ──。
当時家族を失ったセナとエマの面倒を見る事にしたサリンジャーはどういう言葉をかければいいのかわからなかった。家族を失ったローレライを前にしても、その答えはまだ出てこない。
「──代償は、重いな」
その言葉を文字通り受け取ったユンとポップコーンはしゅんとする。
「はは、そんな顔するなよ。今工房にかけあって、一番腕のいい義肢装具士を呼んでるところだ。アーツ制御できる筋電義手もあるらしいし」
腕を失い、親友も失ったサリンジャーだったが、それでも彼女はその行いに後悔はしていなかった。
「アタシの家族は黎明旅団だ。家族を守れるのなら、腕の一本二本は惜しくない」
『うううっ! ぜったいユンが最高の義手にしてやるネ!』
「うん! わたしも切断端の治療頑張る!!!」
サリンジャーはチビたちの結束に微笑んだ。そしてまた親友の面影が残るローレライを見て、今度こそ彼女は自分が守るのだという強く硬い決意をした。
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