第26話 終幕②
黎明旅団は、各国首脳が集う国際会議『国際機構』の下部組織である。元は民間軍事会社として登録、後に国際機構に吸収され、半民半官の第三セクターとなった。
主な任務は極地探検による旧文明の発掘調査研究だが、第二には国際互助組織として各国や企業の依頼を報酬の多寡によって受ける便利屋としての側面を持つ。
また第三に、有事においては国際機構の軍事力として稼働することもある。
そういった諸々の理由から、観測船マゼランには牢屋──正確には要人保護特別室という扱いだが──があり、現在セナとロアは隣同士の檻で監禁状態にあった。
そこにひとつの足音がした。カツ、カツとこちらに近づいて来る。
現れたのは、目つきが悪く、さっきまで人を拷問していたと言われても違和感のない人相をした大柄の男だった。
ジャケットを羽織りしゅっとしてはいるが、セナとロアを見る目は冷酷そのものだった。
黎明旅団第9支部、支部長兼マゼラン艦長ラウラ代理、総支配人シリウス。
男はセナとロアが両方見える間の位置に立って、反対側の壁に背を預けた。
「シリウス……」
「サンをつけろ。俺は年上だろうが」低音が鋭く響く。
シリウスはラウラと同期の探検家で、乖離等級は60、階級は指揮級。灰塵ローレライが32等級だったことを考えれば、その威圧感にも説明がつく。
そして彼はラウラより第9支部及び観測船マゼラン運用の全権を委任されている。信頼か、面倒くさがりか真偽は定かではないが、この艦の行く末を実質的に決定しているのはシリウスだった。
「セナ・オーブリー。お前は旅団の法を破った。よって除名処分とする」
そのあまりに唐突の処分にセナは動揺した。
「待ってください! 私は救助要請に従って──」
「救助要請は絶対じゃない。お前は上司が死ねといえば死ぬのか」
冷たい言い方だったが。それは間違ってはいなかった。セナは言い返せない。
そしてシリウスはロアの方を見る。
「ロア、と言ったか。お前は先日記録されたサリンジャーとラウラの契約を破り、その能力によって複数の人身を危険にさらした。処分は厳しいものになる。詳細は追って伝える」
ロアはその内容について考えるではなく、シリウスのことをじっと見ていた。ロアにはその人の心が少しだけ見えた。それは彼の固有能力などではなく、観察力と感受性がもたらしたものだ。
「お前は平然としているな」
「ああ。それより気になることがあるんだ」
シリウスは無表情のままロアと向き合った。
「敵対勢力の情報に関する司法取引を持ち掛けようとでも思っているのか、諦めろ」
「シリウスと言ったか」
「サンをつけろ」
ロアは気にせず続けた。
「あなたは僕らにひとつの敵意も向けていない。そんなにも怒っているのに」
シリウスの表情は動かない。
「怒っているように見えるのなら、それはお前たちに掟を破った罪の意識があるからだ。敵意が無いのは、お前たちなど敵意を向けるに値しないからだ」
「なぜ私たちだけ──。探検家はみな危険を冒して……!」
「なぜか? セナ、お前はいつも文書を偽造して非正規に極地へ入ろうとしたな。今回も似たようなものだ。お前は正当な手段で探検をする人間を下に見て、自分は違う、特別だと考えているんだ。その傲慢さがもたらしたのがその腕の傷だろうが」
「ちがう、そんなこと!」
彼女の腕には何度もプラズマ砲を撃って、耐えられなかった皮膚や筋繊維の損傷が残っていた。
「何が違う。偶然拾ったおもちゃを振りかざして物語の主人公にでもなったつもりか。俺は隊員の監督者だ。だから他の善良な人間に代わって言う。自惚れるな。お前は所詮未熟者だ」
セナからロアを見ることはできない。だからその環境はセナを一層みじめにさせ、孤独にさせた。セナはそんなことを思ってはいない。だが、本当に潜在的にそう思ってはいなかったのかと、考えてしまった。
「シリウス、そこまでにしてくれないか。僕のパートナーを侮辱するのは」
ロアははっきりとそう告げる。
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