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黎明旅団 -踏破不可能ダンジョン備忘録-  作者: Ztarou
Act.1 The First Complex
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第24話 灰塵②

 ロアは語られる言葉ひとつひとつに重さがあるのを感じて、それは決して嘘偽りなどではないということを理解した。だからこそ、言葉は慎重に選ばなければならないと思った。


『私のこと、偽物のローレライだと思う? ファントムは可能性でしかないって。虚構で、偽りで、幻想で、気の迷いだって。だったら、この感情は、何もかもを灰塵(かいじん)に帰したいこの激情は、なんなんだろうね──』


 灰塵ローレライはロアの価値観を揺るがした。彼にとってファントムは、能力を借りるだけの、存在する非存在。そう教えられたから。それが正しいと思っていたのだ。


 だが、素晴らしい人生の裏には悲惨な可能性が生まれる。ろうそくの足元には影が生まれる。ファントムという言葉の通り、それは幻なのかもしれない。だが、その暗さは確かな質量を持つものだ。


『本題を言ってなかったね。そう、私は勧誘に来たの。君を』


「勧誘?」


 灰塵ローレライは頷いた。


『──シンジケート。それは、虐げられてきた者たちの為の組織』


 ファントムの、ファントムによる、ファントムのための組織。


 それがシンジケート。


『私たちは願いを叶えるためにシャンバラを目指してる。それは黎明旅団と一緒だね。でも手段は問わない。必要なら傷つけるし、奪うし、殺しもする。黎明旅団とはその信条を異にすると思う。いずれぶつかる。その前に、君をこちらに迎えたい、ロア』


「……なぜ僕なんだ」


『うちのトップが君の事気にしてたからね。きっと君は重要だ。そんなアーツ見たこともないし、手中に収めたい。私も頑張り屋さんな君が好きだし、一緒に行きたい』


 どうかな? という問いに対し、ロアがどう答えるのかを、セナは何もできずに見ていた。確かに、アーツホルダーはファントムの事を慮ったりしない。

 今開示された情報について考えれば、黎明旅団という組織が存外、利己主義であることにも気づくだろう。


 ──それでも私は、彼にこの場所を選んで欲しい。


「僕はファントムじゃない。たとえそうでも、君に賛同はできない」


「──ロア」


 灰塵ローレライは特別顔を動かさなかった。ただ淡々と、言葉をつなげた。


『なんで。困っている人を助けるんじゃないの。それが正義なんじゃないの。そうあるべきじゃないの。ねえ。あなたは自分が本当に正義だと胸を張って言える? ねぇ。偽善者を支持するの? もし拾われたのが私だったら私があなたにとっての正義だったの? ねえ。それってまるで、ひな鳥の刷り込みみたいじゃない? ……──それはいったい依存と何が違うっていうの、答えてよ』


 曇る瞳。


 ロアはそれが暴力を孕んだ正論であると気づきながらも、自分が信じることを言った。


「あなたがどんな辛い経験をしようと、それは人を傷つけて良い理由にはならないんだ」


 その言葉で激情に駆られた、灰塵ローレライは《灰塵》によってセナもろともロアを吹き飛ばした。ふたりは重なり合って壁面に打ち付けられる。


「がはっ──」


 地鳴りがする。岩石が浮遊し砕け、巨大な砂の嵐を生み、ローレライの周りをまわる。灰塵ローレライはふたりを殺す気だ。


 その目には、あの日訓練に付き合ってくれたような優しさはなかった。


『否定され続けるのは、もう疲れたよ。今度は私が全て否定する──』


 ロアは知っている。世界は理不尽でできているのだと。自分がこの世界に落ちてきて、死ぬや生きるやの判断は他人任せだった。今の自分の目標でさえ人からの借り物だ。ロアには何もない。彼自身は空虚で、真っ白い──。


 それでもロアは信じていた。自分のパートナーを。理不尽など打ち破る彼女の強さを。


「ローレライ。あなたの言うとおりだ。僕はあなたに拾われていたら、あなたの掲げる正義におもねったかもしれない。……でもね、僕を拾ったのはあなたじゃない。あのとき砂浜に居てくれたのはセナだ。あなたじゃないんだよ。重要なことはきっとそれだけなんだ」


『……へえ。なら自分に嘘をついてでも間違った正義を妄信するの?』


「嘘もつくさ。僕は正義でも、正義の味方でもない。僕はただの探検家(シーカー)だ──!」


 セナとつないだ手。指と指を絡めていれば、循環の速度を倍増できる。


 ロアの心をセナに、セナの心をロアに。


 背中を、体重を、心を預け合う。


 精一杯の気持ち込めて、それをただ単純な気持ちでぶつけるだけだ──。


 先生だった人に向け、もう一度、イグニッション。


 ヂカ……ジカ……シン──BRAAAAAAAAAAAAA!!!!!


 その一撃は灰塵ローレライを確かに、あの巨人のように吹き飛ばした。だが、ふたりは《灰塵》が一体どれ程恐ろしい力なのかを、真に理解していなかった。


 洞窟には、ふたりの荒い息遣いだけが響く。


「やり、ましたか……?」


 その言葉を発するが早いか、地面に散らばった砂が、空気中の分子が、ひとつの地点に向けて凝集する。


 灰塵ローレライは己という粒子の集合をも操作する。たとえ最後の一粒になっても、一粒あれば死なない──。

「ちょっと面白そう」と思っていただけましたら……!


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