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黎明旅団 -踏破不可能ダンジョン備忘録-  作者: Ztarou
Act.1 The First Complex
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第23話 灰塵①

 超高温が岩壁をチリチリと焼く音がした。


 ロアはセナの指先から放たれた一撃の反動で滝とは反対方向の壁に打ち付けられていた。幸いなことに、もう重力異常は別な場所へ移動していたので、ロアが壁に潰されることはなかった。


「でかいやつを……倒しましたね……」


 崩れる様に地面に落ちたセナは、それが普通の重力であることに安堵した。

 そして、プラズマ砲を放った反動で指先から肘にかけて痛々しい傷跡が残った。

 だが、痛みこそあれ動く。セナは震える膝を叩き、巨人に殺されかけた女の子を救う為歩き出した。


 ロアはラウラから受けた打撃に比べればどうということもないと身体の復旧に集中していた。上手くいった。


 海岸での秘密訓練が功を奏した。何度も砂浜で暴発したけれど、今回は一度で成功した。それは想いの結実が生んだことだった。


「ああ、よかっ──……」


 待て。


「ロア、あの女の子がどこにもいません! いったいどこに」


 セナは「でかいやつ」と言った。あの岩石の巨人は極地生物学に優れるセナでも名前を知らない。つまりそれは、あれが極地生物ではないということを示す。


 極地生物ではない、岩石の巨人。そんな真似、アーツにしかできないんじゃないか。


「セナッ、深追いしちゃだめだ! 戻って──」


 ロアは背中から抱きしめられる。


『勘がいいねロア。戦いを終えても気を緩めない所、素敵だなぁ』


 その声に聞き覚えがあった。だが、そのとき聞いた声とは違う。全身に嫌悪感が走るような、全てが不協和音でできたような声。重なり歪に曲がるその声。


「なんでここに居るんだ──シルバーサーティ」


 ロアの背後に立ち抱いているのは、名前の通り、銀色の短い髪と泣きぼくろが印象的な、シグナルの女性だった。


『ごめんね。私、黎明旅団の敵なんだ』

「敵──」


 セナは戦闘態勢に入るが、シルバーサーティが手の平を彼につけていることを示したため、攻撃が出来ない。


『うんうん。賢いね。だよね。ノルニルを操作できると言っても、その前に分子にまで分解されちゃったら、死んじゃうからね。アーツでも近接格闘でも、勝てるわけないもんね』


 ロアは彼女の手が触れている所に冷たさを感じた。それは死が目前にあるという恐怖。


「……シルバーサーティ、女の子はどこだ」


 ロアは落ち着いて問う。相手が理性的であるという方に賭けて。


『んー。目的のために、全部説明しておいた方が良いかな。嫌われたくもないし』


 賭けた方は間違っていなかった。彼女には何らかの目的がある。


『まず、私の名前はシルバーサーティじゃないの。本名はローレライ。だからできれば、ローレライって呼んで欲しいなぁ』


 ロアは逆らうべきでないと思い頷く。


『ありがとう。それで、君たちが倒したあの岩石巨人、あれはご想像の通り、私がアーツで作ったの。ボスとしては中々いい出来だったでしょ?』


 ロアは何も答えない。


『でもびっくりしたなぁ。あの貧弱だったロアと、暴走気味だったセナが、力を合わせて敵を倒すだなんて。女の子を助けるって気持ちが、きっとアーツを強化したんだね』

「その女の子は? まさかあの子もアーツで……」

『ううん。あの子は本物。名前はローレライっていうの』


 その言葉に、ロアとセナは固まった。ローレライ──?


『へへ。その顔いいなぁ。種明かしって楽しいね』

「どういうことなんですか」


 シルバーサーティ、もといローレライは、とても優しい目をして指をひゅんと動かした。すると、浮遊するノルニルの結晶に両腕を貫かれ、磔の様にされた女の子が、岩陰から連れてこられた。


 足を引きずられ、血が出ている。腕もだ。


 気を失っているようだったが、身体の大きさに対しての出血量が、嫌な想像を生んだ。


『その子は、この世界線のローレライ。まだ小さい頃の私なの』


 そう言われ、女の子を見たふたりはぞっとした。言われてみて、ようやく気が付いたのだ。女の子が、銀の髪と涙ぼくろを持っているということを。


『そして私はファントム。ローレライの別の可能性。それが具現化した者──』


 灰塵(かいじん)ローレライは、静かに語った。


「……ファントムに身体を乗っ取られるというのは聞いたことがあります。ですがファントム自身が具現化するなんて話──」


『それもそうだよね。だって特別な方法を使ったし。でも嘘は言ってない。嘘を吐いたら信用を失うでしょ』


「この状況で、まだあなたを信用できると思っているのか」


『どうだろう。君が掲げる「正義」によるかな。あの日言ったよね、抱えて生きろって』


 ロアはあの日の答えを未だ出せずにいた。


 それを見透かしてか、ローレライは言葉を紡いだ。


『私はね、アンテケリアの路地裏で育ったんだ。妹と弟の食費と学費のために一日に38時間働いたり、色んな人に土下座して借金したり。殴られたり蹴られたり。身体を売ったこともあったよ。でもね、弟が流行り病に罹って、妹まで身体を売るようになって、弟が風邪をこじらせて死んで、妹が首を吊って死んで。そんなときにようやく気が付いた。世界には意味がないんだって。そのとき《灰塵》の力に目覚めた。気づいたら、街ごとぜんぶ、砂と灰になった。で、この世界に来てみたらびっくり。こっちのローレライはエルゴーの裕福な家庭で、優しい両親にハグされてたんだよ。へへ。──君の正義は、いったいそれをどう思う?』

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