第21話 紅蓮①
「GRAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!」
ロアは地面に触れる。乖離等級を、ノルニルを操作して無力化すれば──できない。
深部にはノルニル鉱床が張り巡らされている。いくらロアとて、それらすべてに干渉することなどできない。
そう思考している間にも、女の子の首は絞められ、こちらには岩石が投げられる。
GRANTZ!
ロアは咄嗟に近くの岩陰に身を潜める。そこで、岩石の破片が頬の肉をバッサリと裂いたことに気が付いた。
痛みと血が流れ出す。だが集中を途切れさせてはならない。
GRANTZ!
岩と岩が剛力によって打ち合わされ、爆破するような轟音で鼓膜が裂けそうになる。暴走状態の自分なら一撃で葬れるのに──。
否、暴走をすれば僕は始末される。無力化も効かない。なら、自分自身の乖離等級を引き上げる方法は通用するか?
ロアはセナと秘密裏に、深夜の七里ヶ浜海岸で特訓していたある事を思い出す。
しかし、それをするにはセナの腕がいる。ひとりではできない──。
上を見上げると、重力異常に抗おうとするセナの姿が見えた。そこで、ロアは出来ると確信した。自分はセナがあの重力を打ち破った時に備える。その瞬間を。
「(彼女ならできる)」
《虚心》の、乖離等級を上昇させるという使用法は無力化よりも難しい事だった。
数値を0にするのは0という下限が決まっているからむやみやたらに調整弁を閉じればいい。実際セナの炎を鎮静化する事も、極地生物を無力化することも出来た。
だが、上昇には感情がいる。サリンジャーが言うところの「意志」だ。
例えばボールを遠くに投げたいと思ったとき、必要なのは「ボールを遠くに投げたい」という意志だ。その目標が難化すれば、当然強い意志が必要になる。数年で億万長者になりたいと目標を立てれば、達成するのにそれ相応の意志がいる。
それは、アーツの基礎にして究極の答えだった。そこに辿り着いたロアは考える。
──この場合、為すべきことは、あの巨人を打倒することだ。それに必要なエネルギーは? そもそもあれは敵か、極地生物か。体中が岩石なら炎は効かない。溶かせるぐらいの高温なら? セナ単体では出せない火力を、自分がエネルギータンクとなって補えば……。
GRANTZ!
「きゃあっ!」
爆ぜる岩石。地面に放り出される女の子。
「GRAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!」
咆哮は止まない。だが、ロアはそれを黙らせる方法を思いつく。
「(僕にもできる──自分を信じてみせろ)」
瞑目──右手で自分の左胸をがっと掴む。集中する。心臓の鼓動を感じる。生きている。何のために生きている。知りたい。それが知りたい。自分が何者で、どこからきて、どこへ行くのかを、知りたい。感情が、自分というノルニルを通過してエネルギーになる。循環している。血液と共に、精神と共に、力の奔流が、外に出たいと暴れ出す。Cocytusがビープ音を発する。乖離等級の急上昇。自分という器から溢れ出そうとする。まだだ、循環。循環。加速、増幅。願え、願え、そして強く祈れ。自分の力をめいっぱいに、今できることを精一杯に。存在を、価値を示せ、そして周れ、回れ、──廻れッ!
ロアはその瞬間が、今だと気が付いて、しゃがんだ足に、エネルギーを流す。そして、思い切り天井に向け跳んだ──。
「VRAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!」
巨人の放った岩石が飛んでくる。だが、そんなものはどうということない。ひとりなら挫けていたかもしれない。でも、ひとりじゃないんだ。
ロアは思い切り上へ手を伸ばす。その先にはセナの手があった。重力異常の檻を打ち破ったセナが空から降ってくる。交差し、そしてふたりの手がつながった。
「イグニッションッ!!!!!!」
……シンッ、シュウ、バチバチッ──BRAAAAASH!!!
ロアの内で解放され、循環したエネルギーの奔流を受け取ったセナの炎は超高温でプラズマ化し、岩石の巨人に向け放たれる。
拡散しないよう一点に。その想いの一撃は極地のノルニルと共鳴し、岩石の巨人を木っ端微塵に消し飛ばす。
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