第13話 能力③
目を覚ますとそこはポップコーンの病室だった。
セナはほっと溜息をついて彼をベッドに縛り付けていた拘束具を外す。ロアの上にはディスプレイがありユンが居てこちらを見つめている。サリンジャーは大鎌を構えており、それを呆れた目でポップコーンが眺めていた。
「ロアくんってまわりに女の子ばっかりいるよね」
「ポンドもいるよ」
「ポンドくんはいいよポンドくんだから」なぜ。
サリンジャーは構えていた大鎌を降ろして用心を解く。
「んで、ロアのアーツはなんだった? 狂暴化系か?」
ユンはぶんぶんと首を振る。
『こいつの中には誰も居ないネ! 思った通りファントムは生まれてないアル!』
ぶぶーっとユンは腕でばってんをつくる。
「適合しなかったってことか? だったらあの能力は──」
『ちゃうちゃう。すっからかんでまっしろ。だからこそ、人の精神に干渉できるすき間があるネ。ユンとおなじだよ。いやそれ以上かナ。比べものにもならないアル』
その場の全員が不思議そうにユンを見る。「つまり?」
『ロア氏がノルニルそのものみたいなモンってワケ。わかる~? 例えばセナ氏の炎、実は強いアーツなのに、メンタルが雑魚だからぶれぶれ~。でもロア氏ならその心に触れて、調整弁になれんのサ。ヤバいよね~(よっ大将)』
サリンジャーは口元に手を当て「そんなことが……」とつぶやいたが、どういうことかロアにはわからなかった。
「──だから無力化された後は等級が0だったんだ。ロア自身はアーツを持たない。でも第三者が『関われば』それに応じて等級が変わる。本当に、ノルニルの調整弁ってわけか」
『さっすがサリンジャー氏理解はやーいネ。ま、せいぜいその能力は隠しときなネ~。悪いやつに利用されたら、小さい町くらいなら多分消し飛んじゃうで(はーと、ぴーす)』
「えっと、あまりわからないのですが」セナが手を挙げて聞く。
『たとえばぁ~。セナ氏の単純火力が50だとするじゃん? そんで、ロア氏が触れたら、それを100にすることも出来るし、逆に0にすることも出来るってわけネ』
「そんなこと可能なんですか?」問いに対しユンは頷く。
『ロア氏は大体のアーツに対してはメタれるネ。──どんな強い敵でも触れば勝てる』
その言葉にサリンジャーがため息をつく。
「水操作や岩操作はよく聞くが、ノルニル操作なんて聞いたこともない……」
しかしロアはというと、自分に強い力があると知って、途端に嬉しい気持ちになった。
「お前嬉しそうにしてるけど、逆に言えば、指一本でも触れなきゃ蹂躙されるってことだぞ」
ロアはその言葉を聞いてしゅんとした。
その中でポップコーンは冷静にカルテに色々書き込んでいた。
「ますますロアくんの事が不思議だなっ。おもしろいっ」
ポップコーンはロアの検査予約を勝手に埋めていった。だが、ロアは前向きだ。
「サリンジャー。この力を活かせるようにもっと鍛えたい」
「いいよ。でもまた乗っ取られてアタシに殺されないようにな──」
そこまで言って、サリンジャーはふと疑問に思った。あの暴発がロアのファントムでもアーツでもないのなら。ならば、あの禍々しい「敵対者」は一体何だったんだ、と。
『そっして命名の儀式~。ずばりっ! 稀に見るメタ干渉系の能力《虚心》ダァ!』
「……へえ。ユンが素直な命名をするなんて珍しいな。心が入っているのが特に良い」
サリンジャーがそう言うとユンはえへへと後頭部を撫でる。
『ロア氏にアクセスした時、心臓の音がすっごく綺麗だったんだぜ~!(ぴーすぴーす)』
ガシャン! とセナが持っていたコーヒーのカップが落ちる。一同セナを見る。
セナも落としたカップを見つめる。そして真顔になる。
「あー。破廉恥ですね、はれんち。不潔ですよまったく、まったくです」
そう早口に言ってセナは部屋を出ていく。サリンジャーは片付けてけよーと叱る。
ポップコーンは「若いっていいな」と呟いて静かに掃除を始めた。その背中は心なしかいつもより小さかった。
何はともあれ、ロアは自分の持つ力の一端を理解できたようで、それが少しうれしかった。
──でも、僕にはなぜそんな能力が使えるんだろう。
アーツではない能力。
ロアは手の中に転がるノルニルが放つ歪な輝きを心に留めた。
自分はいったい何者なのだろうかと、未だ答えの出ない自問をしながら。
「ちょっと面白そう」と思っていただけましたら……!
──下にある☆☆☆☆☆からご評価頂けますと嬉しいです(*^-^*)
ご意見・ご感想も大歓迎です! → 原動力になります!
毎日投稿もしていますので、ブックマークでの応援がとても励みになります!