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黎明旅団 -踏破不可能ダンジョン備忘録-  作者: Ztarou
Act.1 The First Complex
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第12話 能力②

『よばれて~とびでて~おはこんばんちゃース! オマエら大好きユンたゃアル~!』


 SHIIIN──。甲板に吹く風の音がする。しかしユンと名乗った女の子はものともしない。


『でっでっ、今回の迷える子羊はどこカナカナ~?』


 画面の中で騒がしくしている。


「……なんだこの珍妙な生き物は」

『っておいおいっ! 誰が珍妙やね~ン』


 ユンを無視してサリンジャーは続ける。


「こいつはユン。黎明旅団の情報通信系統を一括管理してる天才エンジニアだ」


「彼女はこう見えてもLegion(レギオン)システムの生みの親なんですよ」セナはそう補足する。


『こう見えてもってどないやネ~ン(爆)(←ひとりじゃ爆笑は使わない定期)』


 ロアは心底不安になったが、ふたりとも平常心なのでこれがいつも通りなのだろう。


「まあ、好みは分かれるが腕は確かだ」分かれるんだ……。


『ユンは基本オマエらのこと~大好きネっ(でっかいはーと)』


 ロアは投げられたキッスをさっと避ける。


「で、なんでエンジニアを呼んだかと言うと、ユンがお前の適性を見てくれるからなんだ」

『そだヨ~! あ、オマエの炎は前より安定してるね。で、オマエのアーツは酒臭いネ』


 サリンジャーがブチっと電源を切ると「ギャース!」と館内放送が流れる。ロアは、ユンの性質については良く知らないが、それが笑いどころなのか真剣なのか不安だと思った。


 サリンジャーが電源を入れると、ペラペラになったユンがぼふっと元に戻る。


『暴力反対! まあいいネ。寛大だからゆるしたげる(はぁと)」

「(緩いなぁ……)」

『でねでね~? ユンたゃはオマエらの体内を流れるノルニルの具合を見れるんだゼ。ほんじゃ、はいっ、ノルニルの説明ヨロシクネ~』


 するとサリンジャーは胸ポケットに手をいれ、そこからピンク色の結晶を取り出した。


「これが『ノルニル』。そういう名前の結晶だ。大断裂以降に発見されるようになった──つまり旧文明の記録には一切情報がない──こういうピンク色の結晶で、ヒトの感情をエネルギーに変換するという、特別な性質を持つ鉱石だ」


 セナはとててっとロアに近づいてくると、おもむろに舌をれろっと出して見せる。桜色の小さな舌の真ん中に、ピンクの結晶が刺さっているのが見えた。


「今からとても概念的な話をしますね」


 セナはそう前置きをして舌をしまった。ロアは「わかった」と頷く。


「探検家がアーツを得るにはノルニルが必要です。まずこの結晶を体内に取り込みます。そうすると、ノルニルが溶け、その人の感情と共鳴します。そして、使用者の『もしもの可能性』を映し出します。それを『ファントム』と言います」


「もしもの可能性?」


「はい。もしもあの時こうしていたらとか、もしもこういう人生を送っていたならとか、ですね。別の人生の『分岐』とでも言うんでしょうか」

「ま、簡単に言えばマルチバース理論だな」


 サリンジャーが続く。


 ──マルチバース。……多元宇宙論?


「人間の『可能性』を参照し、そいつの最も強い感情と結びついた『別の自分(ファントム)』を自分の中に作り出し、その力をインストールして借りる」


「それがアーツという魔法みたいな力の仕組みです」


 ロアは整理するのにすこし時間を要した。


「つまり、アーツを使う探検家は『もうひとりのもしもの自分』という幻影(ファントム)の力を借りているってことか?」


 サリンジャーは頷く。


「ファントムを持つ人間は、そいつと一生対話していくことになる。相手は能力を持っている存在だ。こっちが弱けりゃ身体を乗っ取られる。簡単に言えば闇堕ちだな」


「だからサリンジャーは私に生半可なことはさせなかったんですよね」

「わかってんなら許可証を偽造すんなバカタレ」


 サリンジャーのチョップがセナに落ちる。


「だからお前もまず自分のファントムと向き合った方が良いと思ってな」


 ──暴走時の第三者。内側にいた誰か。ロアにはその記憶がなかった。


 そして一連の説明を終えると静かに待っていたユンが話し出す。


『ま、ざっくりそゆこと~(ぴーすぴーす)。ほんでー、ユンはまぁ特別だから、そいつのノルニルがどんな状態かとか見れるわけネ~。しゅごいでしょ~(ユン様、しゅごーい)』


「可能性、か」ロアはその関係を反芻しゆっくりと咀嚼した。


『ちなみに乖離等級もユンのアルゴリズムで決まってるんだぜ~(いぇい)。ユンってばまぢ天才すぎて人間国宝どっこいしょ~!』


 サリンジャーはノルニルを手の中で投げたり転がしたりしてロアに近づいてくる。


「で、だ。ユン、何が問題だって?」


 事前に話でもしていたのだろうか。ユンは話を受け取って言った。


『ロア氏には100%、ファントムは生じないネ』ユンは真面目な声でそう言った。


「なに? だが、あの暴走に説明がつかない」

『そーなんだけどさ~? んー、まあ、じゃあやるだけやってみよカ~(にこにこ)』


 サリンジャーの端末から目をあげると、目の前にノルニルを持ったサリンジャーが居る。


「ちなみにお前って痛いのとか苦手?」

「まあ、人並みには苦手だと思──っっっ!!!」


 ──GYAAAAAA‼‼‼


 何の前触れもなくロアの首筋にノルニルをぶっ刺したサリンジャー。ロアはその痛みのショックで意識がぱったりと途絶えていた。

「ちょっと面白そう」と思っていただけましたら……!


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[一言] 別の世界の自分の力……スクストのメモカとか、型月のカレイドステッキとか(ォィ
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