第110話 消失③
「どういうことだ?」
シリウスの言葉にロアは混乱した。
「言った通りだ。今、ラウラが終末フロイトという爆弾を抱えている。だが、他の贋作、祈祷はその場から消失した。ファティマによると、あの《撃鐘》と会話をした後にすぐらしい」
「ン。そういうこったな」
「まて、だったらもう後はあの鐘を回収するだけでいいんじゃないのか? これは戦争じゃなくすることが出来る」
ロアの言葉にシリウスは首を振った。
「さっきラウラの支援に行った部隊と、鐘の回収に向かった部隊が両方死んだ。既に二十人以上が死んでいる。向こうにはまだ何かいる」
「私が行きます」
人垣を分けて、セナがそう言った。
「セナ。お前はまだアーツが使えないだろ。そんな身体で──」
言葉を継がせないようにセナは、前に出た。シリウスのネクタイをがっと掴んで、そしてその腕に、薄いピンクの結晶──ノルニルを突き刺した。
「お前ッ! 急性中毒にな──」
「これが私の決意です」
降ろした手は、ロアの手を握っていた。
「シリウス。僕はセナを支持する。だが、無茶は絶対にさせない」
「もう既にそれが無茶だろうが」
「いいや、僕が居れば無茶じゃない。僕はノルニルを操作出来る」
この頃、既にロアは自分の力に自覚的であった。自分には何が出来て、何をすべきなのか。その役割を、ちゃんと理解できているのだ。
「私は自ら死ぬような馬鹿はもうしません。痛い目は、鎌倉大瀑布とロサンゼルスで見ましたから。ここで行かなければ、私は一生進めないままです」
そんなの、探検家じゃない。セナはそう言い切った。ロアから教わった、自分を奮い立たせる力、それは愛だ。心から湧きたつ、情熱、救いたい祈り、世界はそれを愛と呼ぶ。サリンジャーからロアへ、ロアからセナへ。
シリウスは額に手をやって顔を撫でるが、指の隙間から彼女らを見た。ミッドナイト小隊一同、もう既に出撃準備は出来ている。
「……俺は自分の小隊を行かせて死なせたことを、まだ整理できていない」
シリウスの言葉は重かった。
「お前たちを送り出すことが、間違いではなかったと、俺に思わせてくれ」
頼む。
そう言ったシリウスに向け、皆が頷く。
本艦で治療を行う者、食事の給仕をする者、医療班、医療班を手伝う者、避難させる者、ボランティア、前線支援、後方支援、南方大工房、ネグエルの行方を計算する者、戦地に向かう者。──これは全員の戦争だ。
それぞれが場所につく。ポップコーンが聖域を作るマゼラン本艦が最終防衛ラインとして、敵がいる拠点は旧ゴールデンゲートブリッジ極地跡。目標はその中心にある《ラプラスの撃鐘》と敵の殲滅。その数十メートル手前に終末フロイトとラウラ。焼け野原が間に挟まり、左翼をミッドナイト小隊、主翼をエキドナ隊、アイアンメイデン隊、ロックウェル隊、右翼をラウラ直下の《黒影》が務める。
そして、セナとロア、そして手負いのサリンジャーが、遊撃部隊として左翼から攻めることが決まった。
戦争は始まっているはずなのに静寂だ。その不気味さが解消されたのは、「それ」が現れた瞬間だった。
数えるに、三万本の剣──魔剣とも呼べる異形の剣を背に、光背のように掲げ、歩いてくる、一人の女。
「ティルフィング。何分あれば全員殺せる?」
『お前が与えるもの次第也』
「じゃあ血をやるよ」
『一時間だ』
偽典ネグエルが呼び寄せた、史上最強の魔剣技使い。
その名を、剣聖オリガと言う。
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