第107話 相対③
そこは終末が訪れたかのように、崩壊していた。ゴールデンゲートブリッジは跡形もなく、遠くにはシンジケートが数名見えた。
ラウラ・アイゼンバーグは遠くを見たファティマの情報が正しいかを聞き直した。ファティマは二度同じ回答をし、ラウラは黙った。
向こうには既に撃鐘がある。祈祷ヨシュアが命を燃やして召喚し、贋作ヴァニタスが契約を結ぼうとしている。
このループが今までで最も先端の地点だ。この先に何が待つのかをラウラは知らない。もしくはまたロアが落ちてくるあの日からやり直すか?
そんなことをやっても意味がない。ラプラスの悪魔が契約をすれば、それは運命に刻み込まれるのと同義だ。これが魔笛の限界だ。
ここでケリをつけるしかない。そう理解はしていても、そこには最悪の光景があった。
ラウラはアメリアの援助は期待できないと思った。援助がなければ相当にまずい状況であるというのは事実だが、それは決して訪れない。
あのラウラ・アイゼンバーグが救援を要請するなど、考えられないからだ。そこには死しかない。アメリアとて兵士の無駄死には許容しないだろう。
だが事実、ラウラがアメリアに救援を求めたのは、何の冗談でもない。あの《破戒》のラウラ》が恐れたものがそこにはあった。
偽典ネグエルが天空作戦の裏で耀国に行ってまで用意した者。ペストマスクとシルクハットをかぶった、喪服の男。その名を、終末フロイト。
最前線に佇むその男から決して目を離さないラウラ。
「シリウス。配置を組みなおしだ。私はアレを止めなければいけない。他の援護はできないと思ってくれていい。私を計算に入れるな」
「だが戦場自体がお前の視界の中にあるだろ。《踊子》は現実の改変を──」
「私がこれから一度でも目を閉じてみろ。……ロサンゼルスどころか西海岸が灰になるぞ──」
終末フロイト──アーツ《終末》。
その能力は、終わらせること。
物質の反物質を生成し──対消滅を引き起こす。
莫大なエネルギーは連鎖的に地上を地獄にする。
そして、その制御は不可能。
男は過去に自らの世界を宇宙ごと消し去ったことがあった。
ペストマスクの男は首を曲げて鳴らした。ラウラは歯噛みする。
「最高だな。およそ考え得る限り、最高の最悪だ──」
こうして、ロサンゼルス防衛戦は冬の凍てつく空気が地を這うように、緩やかにその幕を開けた。
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