第106話 相対②
贋作ヴァニタスは雷を落として力を使い切り気絶した祈祷ヨシュアを抱え、安全な場所に寝かせた。ペストマスクの男に守るよう指示すると、今度は頷いた。
海峡の水は蒸発、左右からの流水を止める様にクレーターが生じ、ゴールデンゲートブリッジはその姿形を跡形もなく消し飛ばされることとなった。
立ち上る熱気と燃える地面が、夜中にもかかわらず周囲を明るくしている。その莫大な力は何から生まれているのか。だがヴァニタスはそれ以上深く考えるのをやめた。
それよりも今は撃鐘だ。魔鍵があれば、この世界なんて──。
その瞬間、背に違和感が生じた。臨戦態勢をとるヴァニタスは、背面にあったそれを見て眉をひそめる。
そこには、高さ2mほどの大きな「鐘」が顕現していた。まるでそれが在る空間だけが別であるように。それは誰が見ても、そして誰に問うまでもなく《魔鍵》がひとつ、運命を捻じ曲げる逆理遺物、《ラプラスの撃鐘》だった。
ゆうらり、ゆうらり、揺れて、問う。
『我を召喚し人間よ──。
我はこうなることも知っていた。
であるからして我は人間の前に姿を現した。
問うべきことがあるのだろう。
問うがいい。
我の名はラプラスの悪魔。
この「宿りの鐘」は器に過ぎない。
世界の過去、現在、未来を知る。
生命、宇宙、そして万物についての究極の疑問の答えも知っている。
それは42だ。
だがそれ以外も知っている。
構成する何もかもを、真理を、全ての人生と感情を、この物語の結末を。
この情報空間の全てをこの身に宿す。
故に我は言葉を使う。──我を呼び出したのは祈祷ヨシュアという人間。
出自はROOT-1999、魔剣が統べる世界。
過去のまにまに失った親友の名は浅倉シオン。彼奴もまた特異点。
ヨシュア──千葉県出身。真の名は永崎ナギサ。
だが気絶しているな──。
否、回答者はお前でもいい。そこの人間、お前は違うんだろう。
人間、お前は贋作ヴァニタスと名乗っているが──。
お前はこの世界線の出身だな。
なぜ偽るのか。我は知っている。
真の名は……そう、お前は本名が知れることを望まず、畏れている。
それでもよかろう。
では贋作ヴァニタス。冷たくありたいと己を騙す愚かなる者よ。
さて、聞こう。お前は一体、我に何を求める──』
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