第105話 相対①
数分前──。祈祷ヨシュアが覚醒した後、彼女はその右眼と左眼に宿した《魔眼》と《祈祷》を使用した。右眼にはインドラが宿り、左眼では祈りによって奇蹟が宿る。
『──撃鐘はここにはいない』
ふと呟いたヨシュア。それにヴァニタスが問う。
「無いではなく、居ない?」
『そう』
彼女の左眼は祈りの量に依存した規模の奇蹟を起こす。実際どこにあるのかもわからない物の場所を簡単に見つけて見せた。だが、見つけたからと言って手に入るわけでもない。
『あれは物じゃないよ。人格がある』
「気味の悪いことを。それで、撃鐘はどこにある」
『ここ』
「は?」
その支離滅裂さにはヴァニタスも声を上げた。だが、祈祷ヨシュアは嘘を言っているわけでもなく、おかしくなったわけでもなかった。
『この極地はそもそも極地じゃない……。巨大な極地生物なんだ。その扶養栄養源が風見鶏。風見鶏がある座標はあってる。でも、時間が違うんだ』
ヴァニタスは問い詰めず、その論を黙って聞くことにした。
『意図的に誰かがそうした様な気がする。この仕組みには作為を感じる。でもなぜそんなこと、それにそんなこと、誰がどうやって──』
「落ち着け。過去はどうでもいい。それをどう手に入れるかが問題だろう」
祈祷ヨシュアは頷いた。そして左眼に手をあてがう。その奇怪なポーズにヴァニタスは何も言わなかった。
『撃鐘は今未来にある。ヴァニタス、あなたのアーツで未来に飛べる?』
「無理だ。《幾何》は空間操作のみを行う。時間は専門じゃない」
そしてヨシュアは考える。ヴァニタスは、偽典ネグエルならば解決策を端的に出すが、この娘は果たしてそうなるかと眺めていた。贋作ヴァニタスという者にとって、この娘はただの運命を縛られた木偶でしかない。魔王の器にない。そう思っていた。だが、ヴァニタスは見誤っていた。力を欲していた人間が力を手にした時、どう化けるのかを。
『未来がなければいい』
「なに?」
思わずヴァニタスは問い返した。
『立つための足場がなければ立てない。居る為のゴールデンゲートブリッジが、未来になければ、居ることはできない』
そう言った祈祷ヨシュアは意味があるのかないのかわからないポーズをする。
そして、右眼のインドラに話しかける。
『インドラ、どれぐらいのエネルギーを生める? そう。足りないね。死にたい? 嫌だよね。なら、どれくらいなら頑張れる? へえ、いい子だね。あとで撫でてあげるよ』
──神を従える、魔王か。
贋作ヴァニタスは彼女の評価を改めた。彼女は間違いなく、次代の魔王だ。その心は、もう人間になど戻れないほど、歪に曲がって、ねじれている。
『最大火力でゴールデンゲートブリッジを破壊する。備えて』
「ああ、わかった」
『……御意に』
ヴァニタスは端的に、ペストマスクの男は静かに答える。
祈祷ヨシュアはあるポーズをした。
左眼から発生したノルニルを左腕に流し、交差点を通じて右腕に流す。美しい循環は、今までにないロスレスエネルギーの増幅を生んだ。彼女の中の雷神が猛り狂う。
『──我が魔眼に集まりし祈念よ、延々と永遠の狭間で狂えよ狂え。ライジングッ!!!!!』
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