第101話 回帰④
しとしとと降っていた雨を眺めていた。少しすると止んだ。その切れ間から、光が見えた。セナはその光を目で追いかけていた。
ロアの事情はラウラから聞いていた。でも、無力な自分に何ができる。きっとまたこの姿を見せて、彼に自責の念を植えてしまう。
せめて炎だけでも使えればいいが、あれから紅蓮セナは応えない。
『──意志なき者に貸す力などない』言われた言葉が、リフレインする。
ぽふっとベッドに身体を沈め、腕を目に乗せると、これからどうすればいいのかという、答えのない問いを、悶々と考え続けていた。
そしてセナがため息をふぅっと吐いた、その瞬間、扉がばんっと開かれる。
「ぅえっ?」
「愛だ! 愛なんだよセナ!」
「なっ、なにごとで──んんんっ!?」
愛という答えに気付き、自分の目指すものと原動力を見つけ、愛に満ち溢れていたロアは若干暴走気味で、上体を起こしたセナのことを思いっきり抱きしめた。強く、ぎゅっと。
デルタがみんなに、いつでも見返りを求めず優しいのは愛だ。
ポンドが頼もしくていつも笑わせてくれるのも愛だ。
ファティマが夜中の3時まで射撃訓練に付き合ってくれるのも愛だ。
ラウラが見守ってくれるのも、シリウスが厳しいのも、ポップコーンがいつも笑顔でいてくれるのも、ユンが、マチネが、エニグマが。旅団員が、探検家が、街の人が。そう。
セナが、一緒に旅をしてくれるのは、愛なのだ。
「僕は馬鹿だ。何をすべきかばかりを考えて、みんなから貰っていた大切なものを見ようとしていなかった。人に心を開くのが怖かった。僕に中身なんてないから。記憶が、心が空っぽだから。見られたくなかったんだ。でも、もう空っぽなんかじゃないことに気が付いた。僕の心はみんなから貰った大切な愛であふれていた。やっと気が付いたよ。今度は、僕が愛を返す番なんだっ!」
「んむんんんー!!!!」
「あ、ごめん」
解放されてぶはぁーと息を吐いたセナ。彼女は訳が分からず顔を真っ赤にしている。ひとまずロアからは若干身を引いて、くしゃりと乱れた髪を整える。
「と、とにかく。ロア、あなたが元気になって良かったです」
「僕はもう迷わない。心の中に羅針盤を見つけたから」
「ふふっ。へんなひと」
セナはそう笑ってまたベッドに寝転んだ。寝巻の隙間から見える《導く羅針盤》は、もうロアを指してはいなかった。
──そうか。彼は見つけたんだ。……あとは、私だけだ。
少年は少女に手を伸ばす。アゲイン。
「セナ、行こう。この道の先に何があるのか、僕は知りたい」
「……炎が使えない、私を危険な旅に連れ出すんですか?」
「置いていったら這ってでも付いてくるくせに」
「よくご存じで」
セナはもう身体の方は万全だった。あとは炎と、そして自分と向き合えるかだ。そんなの、どうとでもできる。ロアとなら、ふたりでなら。
「ええ、行きましょう」
セナは壁に掛けてあったシーカーコートを手に取り、ベッドを飛び出した。
ふたりはもう、振り返らない。
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