第100話 回帰③
話し終えて、サリンジャーは「尻に刺さるな」と言ってスキットルをポケットから出し、中身を飲み始めた。定義の代償の禁酒があるので、中は桃味の天然水である。
そして彼女は静かに話し始めた。
「ゴールデンゲートブリッジで、アタシとお前は似てるって話をしたよな」
ロアはスープをすすりながらこくりと頷く。
「アタシには、たったひとつのかけがえのない何かを追い求める気持ちはない。最もだとか、一番だとかさ。大体、かけがえのないものなんて、失くしたら辛いだろ」
「僕もそう思う」
「そこに共感する辺り、やっぱアタシとお前は似てるよ。きっとお前には正義がない」
その言葉に、ロアは少しうつむいた。
「でもさ、正義だけがかけがえがなく正しいなんて、いったい誰が言ったんだよ!」
ロアはふっと顔を上げ、サリンジャーの横顔を見た。
「探検家は正義の味方じゃない。自分のエゴを真に貫く者たちだ。その目的が正義であってもいいが、正義である必要はないんだよ。それをお前はもう知ってるはずさ」
「ならば、僕らは何を求めれば、僕らみたいな探検家はいったい何を頼って歩けば──」
サリンジャーはロアの肩に腕をのっけた。
「愛だよロア。愛なんだ」
その言葉は、確かな熱を持っていた。
「──愛」
ロアは、それを呟いたときに、胸の奥底でぽっと何かが灯ったのを感じた。
「まだ見ぬ世界を知りたい気持ち、自分自身を知りたい気持ち、誰かのことを深く知りたい気持ち。誰かを守りたい、自分を守りたい、大切にしたい願い。抱きしめたい、熱を伝えたい、一緒にいたい祈り。確かめ合いたい想い──世界じゃそれを愛と呼ぶんだぜ」
ロアの中に滞留してした暗雲が、吹き飛ばされる。
「──ふふっ」
「なにがおかしいんだよ」肘でロアを小突くサリンジャー。
「愛だなんて、恥ずかしげもなく、真剣に言うから」
「わ、悪いかよ」
ロアは笑いながらも頭を横に振った。
「悪くない。ありがとう。おかげで僕の中の悩みは、何一つなくなった」
それを聞くと、むすっとしていたサリンジャーも微笑んだ。
「ははっ。なあ、走り出したいだろ」
立ち上がったロアに向けて、サリンジャーは言う。そしてぱしんと背を叩く。
「ああ、行ってくるよ!」
そしてロアは走り出す。この愛を、伝える為に──!
お読みいただきありがとうございます!!!
続きが気になった方は☆☆☆☆☆からご評価いただけますと嬉しいです!!
毎日投稿もしていますので、是非ブックマークを!
ご意見・ご感想もお待ちしております!!