第97話 告白④
「君のことが好きだからだっ! 理由なんて、それだけだっ!!」
ロアの両肩を押さえるデルタは、顔を真っ赤に、真っ直ぐな瞳でそう言って、止まらない。
「のんびりした、うさぎみたいな顔が好き。碧くてきれいな瞳も、長いまつげも好きだよっ! あくびするときに上向くのが恥ずかしくて、両手で顔を隠すのが好き! 跳ねた寝ぐせを気にする仕草が好き、子ども達に読み聞かせするときの落ち着く優しい声が好き、友達のことが大好きな所が、セナを大切にしてくれることが、旅団を家族だって思いたいと思ってくれているところが好き! 名前も知らない誰かのために泣ける優しいところが、誰にでも優しくて、でも投げやりじゃなくって、ひとりひとりに真摯に優しくて、あたしを誰かの脇役じゃないデルタとして見てくれた、そんなあなたが、大好きなの……──!!」
ぽたっ。ロアの頬にぽたりと雫が落ちた。
「だから『僕なんか』なんて、言わないで──」
誰かを想う気持ちなんて、一方通行だ。ふたりの人間が同時に、同じ熱量で互いを好きになることなんてない。世界はそんなに都合が良くない。在るならそれは偽物だ。想いは伝えなければわからない。言葉にしなければ届かない。でも、言葉にすれば、届くのだ。
デルタの真摯な言葉は、ちゃんとロアの胸に届いていた。
「……誰かに好かれても、良いのだろうか」
「いいんだよ。もしだめでも、あたしは勝手に君が好き」
彼女の優しい言葉に、暗がりに落ちたロアの目はもう一度光を取り戻す。
そしてロアは身体の上にいるデルタの顔を見つめ、ぼうっとして、頬が熱くなる。
「え、あ。あれ? えっと、あれ? ちが……──ああっ!?」
デルタは自分が勢いに任せて言った発言群に混乱した。そして、勢いに任せて、自分がとても大胆なことをして、言ったことを段々と理解する。
「あばばばばば」
デルタはそのまますくっと立ち上がり、「ち、違うから! 違うんだもん!」と叫んで、走って行ってしまった。ロアは頬を掻き、押し倒された姿勢のまま、デッキに寝転んだ。
曇天の空を見上げ、デルタのおかげで掴みかけた、たったひとつの冴えた答えを探した。
そこに、タンタンタンと聞き馴染みのある足音がする。ただのスニーカーではなく、ノーザンプレイス社謹製オートクチュール、極地探索用シューズ「アルテ」。一流の探検家なら誰もが憧れるその靴の音。
寝転ぶロアの隣に、アルテを履いたサリンジャーがやってくる。彼女はしゃがんでロアの頬をつねると、にやけて言った。
「お前も隅に置けないなぁ」全部聞かれていたようだ。
ふいっと顔を背けて彼女の指を解くロア。
「ま、お通夜みたいな顔って聞いてたから、色恋にうつつを抜かせる余裕があって安心したよ。お前って、気にしなくてもいいこと、延々と考えるダルい性格だろ~?」
ダルいと言われ、少し傷ついたロア。上体を起こして壁に背を預ける。サリンジャーもロアの隣に座る。ロアはデルタが作ってくれたスープを注ぐと、静かに飲み始めた。
「様子を見るに、何か答えを見つけたか?」
ロアは頭を横に振る。
「あと少し。……僕がこれから何をすべきか、どう歩くべきか。そして、何を魂に刻んで生きてゆくか。その答えが、もう少しで掴めそうなんだ」
サリンジャーは、デルタの無垢さがいい方に作用したかなと微笑んだ。探検家には人死にの話が多い。だから、デルタみたいに真っ直ぐな想いを持てる子は、つい応援したくなる。
──なら、次はアタシの番だな。
サリンジャーは手に持っていたサンドイッチ──たまごスペシャル──をかじりながら、しばらくぼうっとした。そして飲み込むと、ふぅっと息を吐いて、空を見た。
雲の切れ間から、一条の光が差している。
「さて、どこから話そうか」
その話がロアの旅に手を貸せたらいいなと、サリンジャーはそう思った。
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