第95話 告白②
低気圧と降り始めた糸の様な雨。しとしととひやり冷たい滴水、同時にじっとりとした湿度の高い空気が漂い、不思議な気持ち悪さを生んでいた。
ロアは甲板で、前髪を雨に濡らしながら、何かを考えていた。例えば最近読んだ本のことだとか、いつか見た白い街のことだとか、そんなことを、ただ漫然と考えていたのだと思う。しかし実際には、そういった色々なアイデアが漂流して、結局は何も考えていないというのが結論だった。言うなれば、何も考えたくなくてそうしているというのが正しい。
彼の心は、ヨシュアに手を振りほどかれたときに、傷つき、引き裂かれた。それは容易に埋められるものでもなく、誰もが彼に触れられないでいた。
ラウラは皆に、問題は時間が解決すると言っていた。彼女自身、それを信じられるほど、優しい人生を送っているわけでもなかったが、ともかく共通の見解として、冷たいようだが、今は放っておくのが優先事項だというのがあったのだ。
実際、ロアは誰かに声をかけてほしいだとか、優しくしてほしいだとか、思ってはいなかった。むしろ、もう誰とも話したくはなかった。目は開いているが、中空をぼんやりと眺め、何を見つめるでもなく、何を考えるでもなく、ただそうしていた。
自分の行動が招いたこと。自分のせいで、誰かが傷ついた。その誰かは、無辜の民や、親友や、同僚や、パートナー。
彼を信じてくれた人すら裏切り、敵の策謀にまんまとはまり。彼はそんな自分に嫌気がさしていた。これが正解だと思って振りかざした正義は、偽物だった。
世界は理不尽でできている──。
でも、その理不尽を招いたのは自分だという事実が、彼の心の柔らかい所を一層残酷に斬りつけた。正義が正しくないのなら、何を信じればよかったのだろう。そう考えたところで、ロアはまた考えるのをやめた。何を考えたとて、良いことなどひとつもないのだか──。
そうして目を瞑ろうとしたとき、雨が止んだ。違った、誰かがロアに傘を差し伸べたのだ。うさぎ柄の傘だった──。
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