第93話 再会⑤
源を怒りではなく、己の中に光ったそれに置き換える。ここで止めなければ他の誰かが命を落とす。守る。それが使命だ。力には責任が宿る。
「偽典ネグエル。黎明旅団第9支部長アイゼンバーグに代わり、お前を逮捕する」
《虚心》6%──乖離67等級、ノンリーサル/シルバーモード。
先ほどと同じ要領で充填した力を携える。触れてアーツを無力化する方法では、単騎であることが不利になる。ここで決着をつけなければならない。
一撃で意識だけをぶっ飛ばす。
「歯を食いしばれ」
『はは、ヒーローらしからぬセリフだ──だが、あなたで良かった』
ロアの拳の一撃が偽典ネグエルの顔に当たる、その前──偽典ネグエルの頭が破裂する。
「なっ──」まだ攻撃を当てていないのに。
鮮血や内蔵物が飛散する。ロアの拳は宙に留まる。一体何が起きた──自ら命を?
「パ、パ?」声が聞こえた。
そしてロアはその光景を見ていた第三者に気が付く。弾けた鮮血とどこかの骨の砕けた一片が顔に貼り付いたその人は、ただその光景を呆然と見ていた。
「カード……、あった、よ、パパ……──」
それを受け入れられないような声で。
ロアはそこにヨシュアが戻ってきていたことに気が付かなかった。彼は罠にかかった。偽典ネグエルは、娘の様に育てた我が子に、自分の死が、敵対者によってもたらされたという現実を見せた。傍から見れば、偽典ネグエルを殺したのは、ロアの暴力的な力だ。
ロアを利用し、敵が何者なのかを、偽典ネグエルは娘に提示したのだ。
「ヨシュア、違うんだ」
「あ、ああ……──」
血が飛散する床に、崩れるヨシュア。ぺたりと座り込んだ彼女は、ただ愛する父の亡骸を見て、涙するしかなかった。その悲痛な叫び声は、ロアの胸をズタズタにした。
親友が、大好きなパパを殺した。
その事実は、彼女の心に魔眼ダークロードを引き戻すには容易い事だった。彼女のオッドアイは歪に光る。外からは雷鳴と暴風の音がする。ヨシュアの涙は止まらない。ロアは動けない。ロアは、彼女のそんな顔が見たいわけではなかった。
そして、こうなることを予期していたかのように、空間に切れ目が入った。その闇、空間の隙間から冷たい目の女性が現れる。
贋作ヴァニタスはロアを見ても何も言わず、ヨシュアの手を取った。
「人間を信じてはいけないという意味がわかっただろうヨシュア。さあ、行こう」
ロアは絶対に行かせてはいけないと思った。
「……行くなヨシュア! 戻れなくな──」
伸ばした手が、天井を突き破って落ちる雷撃によって貫かれる。ロアの全身に激痛が走る。
魔眼ヨシュアの右眼は涙を流しながら、揺らめき、光を放っていた。
「……──信じたのに」
そう呟いた彼女は背を向け、贋作ヴァニタスの作り出したポータルの中に消えていった。雷で弾き飛ばされたロアは動けなかった。
しばらくして雨が降り出しても、ロアはもう何もしなかった。何もしたくなかった。
暗く重い曇天が、雷鳴を轟かせながら、冷たい雨を降らしながらロアを見下ろしていた。
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