第89話 再会①
わたしは小さい時から、ヒーローに憧れてるんだ。
うん、そうそう。耀国映画とかの、悪い奴をぶんって倒す、かっこいい人。
大人は現実を見なさいっていつも言ってた。けど、どうしても信じたかったの。だってかっこいい。きっと誰もがあんなヒーローみたいに、特別になれるって、ずっと思ってた。普通な私でも、いつかって。だからその時の為に、必殺技とか衣装を考えたり。でね──。
それを続けてたら、叩かれた。ほっぺを、ばんって。
ずっと友達だって、わたしだけ思ってた子に。
周りはやっぱり嫌だったんだと思う。言われたことがあるの。「自分が捨てたものを大事にされると、自分が悪者になったみたいに思える」って。そんな風に思うなんて思わなかった。わたしの想像力が足りてなかったのかもしれない。
優しい子もいたよ。17歳にもなったらさ、そういうの、卒業しないといけないんだって、隠さなきゃいけないんだって教えてくれた。今はその子、何してるのかな。
その時から、ひとりぼっちなんだ。だから人が怖いの。誰かに殴られるかもしれない。耳を引っ張られたり、好きだったスカートを破られたり。水をかけられるかもしれない。
そういうことがあってね、理不尽に誰かの権利が奪われるのは、嫌なの。
わたしみたいに、苦しんでほしくないから──。
***
ヨシュアは短く細い髪の端をつまんで、遠い昔のことを話すようにしていた。ロアは約束通り、話を聞いて、言葉にするのが難しいもどかしさを感じていた。
「今はね、世界中を回って人を助ける方法を見つけて、そうしてるんだ。R.A.Y.S.っていう国際互助団体なんだけど。わたしは、世界から理不尽を無くしたいの」
「素敵な活動だな」
ロアはセナの言葉を思い出していた。行きたい場所がある、後悔はしないと。
今度はその言葉を、ロアが誰かにつなぐ番だ。元から持っている、精一杯の素直さで。
「なあ、ヨシュア。僕の必殺技を知ってるか?」
「え?」
ロアは徐に立ち上がり、腕をクロスさせ、眼力を込める。
「──《虚心》0%、乖離0等級、ノンリーサル/アステンシブルモード」
瞑目したロアは、カッと目を開く。隣のヨシュアはびくんと揺れる。
「はぁあぁああっ!」
「おおお……」ヨシュアはぱちぱちと拍手する。
「いま開発中の技なんだけど、使ったらまずいし、形だけ。でもたぶん、腕をクロスさせることで集中的に力を循環……」
そのロアの肩をがっとヨシュアが掴む。その目はぎらりと妖しく光っている。
「ロア。内側に手のひらが向くグーのクロスもいいんだけど、もしビームの射出が手のひらなら外向きで手のひらは握らない。交差点はより遠くに。身体と腕をひとつの輪と捉えれば循環効率が飛躍的に向上するんだ。右利きなら右前腕が上で──」
かなりの早口である。
「や、ビームは出ないんだ」
「でないんだ……」
「あ、でも出たら強いな。狙撃手として何かを失う気もするけど……」
「でしょ! ビームは憧れなんだよねっ」
「パンチもかっこいいんだぞ」
「いーや、ビームだね。ビームだね!」
ロアは、場所を街の南にあるファストフードチェーンに移し、その討論の続きをやろうと提案。ヨシュアは「乗った!」と言ってついてくる。
彼は思った。もしヨシュアにノルニル適性があれば、きっとビームも撃てるだろうなと。けれど彼は能力を持つ責任について自覚的であった。
それでも、かっこいい技の話ならロアは──否、探検家なら大体──永遠に語れるので、ヨシュアがこれまでできなかったことを、失った時間を、できるなら自分が贈ろうと思った。
それに、そんな気持ちなどなくとも、友達とこういう話ができるのが、ロアにとっては一番楽しかった。
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