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黎明旅団 -踏破不可能ダンジョン備忘録-  作者: Ztarou
Act.1 The First Complex
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第84話 協定③

「総支配人シリウス・アゼガミ。今回の作戦が失敗したことによる経済的、政治的損失の算出が終わりました。セレティア協定評議会としては、あなたの指揮は間違っていたと評価せざるを得ません」


 超長距離通信室、通称ホワイトルーム。13枚の通信窓が開き、それぞれセレティア協定評議会議員の名前が表示されている。現在喋っているのは議長の女性で、その正体は黎明旅団の各支部長しか知らない。通信は全て記録され、機密情報として扱われる。


 支部長以外の人間がこの部屋に呼ばれるのは珍しいことだったが、ラウラは先の一件──灰塵ローレライによる襲撃──で行われた査問会にて評議会に敵対行動を取ったため、出入り禁止処分を下された。もっとも、ラウラをそれでも罷免しないのは、それだけ彼女が優秀であり、戦力として必要だとみなされているからであった。


「すみません、議長。この責任は私が取ります」


 シリウスはあくまで冷静にそう言った。


「と言っても、あなたをどうにかすれば、我々がアイゼンバーグに殺されるでしょうね」


 議長は裏をかくような会話は好まず、直截的な物言いをする。


「ええ、そうでしょうね。あまり健全な関係とは言えませんが」


 シリウスもまた、議長と共にラウラに振り回される人物のひとりだ。


「許せん。いくらなんでも目に余る。奴の力だけを取り出す逆理遺物はないのか!」


 他の議員が言うと、数名の議員が賛同した。


「《魔鍵》ならば或いは──。いえ、なんでもありません」


 シリウスは淡々と言って、その後口をつぐんだ。彼の目は一度も閉じていない。


「なんだそれは! そんなものがあるのか!」

「ええい、まどろっこしい。情報を寄越すのだ情報を!」


 そのような言われ方をしても、シリウスが怒ることはない。静かに続ける。


「ラウラを止められるものはこの世に3つしかありません」


 そう言って3本指を立てるシリウス。


「早く教えろ!」

「それはなんだ!」

「アゼガミ、なぜ黙る!」


 シリウスはただまっすぐ、壁面を見つめていた。


 ──議員は黎明旅団を擁する国際機構の核、セレティア協定評議会の人間。にもかかわらず探検家の事を何も知らない。議長以外は耄碌した無知蒙昧、烏合の衆だ。


 シリウスは薬指を曲げる。


「ひとつは魔鍵《シュヴァルツシルトの歯車》。どこにあるのかは知りませんがね」


 彼は嘘を吐いてはいない。彼は知らないのだ。そんなものあるとも思っていない。だが、実際にラウラを封じることが出来るとすればそれだけだ。そうラウラ自身が言っていたのだから。


 シリウスは人差し指を曲げる。


「ふたつは黎明旅団第1支部長の《覇道》。彼なら力で止められる。どこに居るのかは知りません」


 彼は嘘を吐いてはいない。彼は会った事もない。そして誰も会えない。だが、実際にラウラを力だけで止められるとすれば《覇道》だけだ。そうラウラ自身が言っていたのだから。


「早く3つ目を教えろ! ガキどものかすり傷に絆創膏を貼るだけがお前の仕事かっ!」


 シリウスは普段あまり怒らない。


 それでも、怒るときは怒る。


 ──かすり傷?


 その言葉が引火した。


「そうだな、あとは自分らの腐りかけの脳みそで考えろ、この****ども」


 そのあまりにひどい言葉に、通信先から小さく悲鳴が上がる。


 残った中指をそのまま突きつけて、シリウスは背を向けて部屋を出た。シリウスはこういった点からも、ラウラから信用されているのだ。信頼ではなく、信用だ。


 部屋の外で待っていたスイレンが彼に預かっていたジャケットを返す。


「****どもは言い過ぎでは?」

「あれくらいがちょうどいいんだ。肩揉みも強い方が良いって、よく爺さんが言うだろ」

「はあ」


 それとこれとは違うのではとスイレンは思ったが、この人を怒らせると面倒くさそうと判断し、何も言わないことにした。


 シリウスはスイレンがジャケットと共に渡した、丁度いま届いた紙の通知に目を通す。そこには、セレティア協定評議会が今後、第9支部の運営に本格的な介入と干渉を行うことが可決されたと記されていた。


「やっぱり、言い過ぎたかもな」


 思ってもないことを呟いたシリウスは、その紙切れを丸めてゴミ箱に捨てる。彼が考えるべきことは多い。プラウダ正義帝国とアメリア両軍の動き、セレティア協定評議会、任務の被害報告書の確認、ロサンゼルス復興、第5支部との協同、サンフランシスコとの折衝、その他色々が彼の肩に乗っている。


「……中間管理職、ね」


 シリウスは眉間を少しつまんで、息を吐く。そして、緩んだネクタイを締め直す。


「仕事だ」


 そう呟いてまた歩き出す。彼の日常もまた、こうして戻ってくるのだ。

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