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これまで、これから

森狼の一件から3年が経ち、私は15歳になった。この世界では成人と見なされる年齢だ。

大っぴらに飲酒も可能になるし、早い者なら結婚相手が決まっていたりする。

どれだけ想い合っていたとしても、15歳に満たないうちは口約束に過ぎず、

春と秋の2回行われる祭りでペアとなってダンスを踊るのを周囲に見せることで、

2人は結婚を前提に交際しているものとして扱われることになる。

どちらも農村にとっては大切な祭りで、色々と意味があると爺様婆様方が懇々と語り聞かせてくれた気がするのだが、

春の祭りは厳しい冬の終わりを祝うものであり、秋の祭りは所謂収穫祭というやつだということしか頭に残らなかった。

ともかく、そんなめでたい場で新たなカップルの誕生も一緒に祝ってしまおうという風習らしい。

この時は関係のないことだと思っていたんだがなぁ……。


そんなことより、少し前にめでたいことがあった。なんと、ついに父から一本取ることに成功したのである!

褒美になんでも言うことを聞いてくれるというので、その言葉に甘えて長剣を用立ててもらうことにした。

父との手合わせは木の長剣でやり、森の探索は短剣でやっていたのだが、未だに身長が伸び続けていることもあって

そろそろ身長にあった武器が欲しいと思っていたところだったのだ。

その希望が通り、数か月後には父から1本の長剣を渡された。

飾り気のない無骨なものではあったが、このくらいのほうが冒険者らしく思えて、ついついはしゃいでしまった。

木剣で行っていた毎日の素振りもこちらの剣に切り替えたのだが、やはり重さが段違いだ。

このところは森の探検に付き合ってくれる者も減った。皆本格的に家業を継ぐべく頑張っているのだろう。

親不孝者で申し訳ないが、家のことは可愛い弟妹に頑張ってもらうとしよう。


弟妹といえば、2人も私に負けず劣らず成長しており、特にセージは私の真似をして一緒に素振りをするようになったのだが、

まだ体力が少ないせいかいつも早々にへたばっている。

可愛い弟が真似をしてくれるというのは嬉しいことではあるが、私のようにはならないでくれと願うばかりだ。

トレニアは私に似ず母に習って家事を頑張っており、最近では随分料理の腕前も上がって女子力という点では既に完敗である。

上のきょうだいがちゃらんぽらんだと下の子がしっかりするというのは本当らしい。

苦労をかけてすまないが、大成したら仕送りでもするので許してほしい。


――それが、つい数か月前のことだ。

ティムの前から逃げ出した私は、家に帰ってきていた。

両親はあの踊りの輪の中にいるし、弟妹は友人たちとはしゃぎまわっている。

いつになく静かな家の中、寝室の自分のベッドの下から荷物袋を引っ張り出した。

これは数年かけてコツコツと用意してきた旅立ちのための荷物だ。

これまで森で捕まえた獲物の肉は各家庭に分配し、皮は加工を頼んでベルントさんに買い取ってもらった後、その代金も仲間たちと分配してきた。

皆はその小遣いで菓子など好きなものを買っていたようだが、私はその殆どを貯金に回し、

一部はこっそりと仕入れを頼んでいた旅用のマントや手袋、頑丈な水筒の購入代金に充てた。

この袋にはそれらの装備と長らく愛用していた短剣、いくらかの保存食などが入れてある。

手元に残った金額は金貨が2枚、銀貨が15枚、銅貨が20枚。

近い街の物価を聞いた限り、これだけでも1ヵ月はやっていけるはずだ。

ちなみに貨幣価値はざっくり言えば金貨が1万円、銀貨が1000円、銅貨が100円くらいになる。

金貨よりも価値の高い貨幣も存在するのだが、庶民が目にするのは金貨までらしい。


――私は明日、この村を出る。

ティムの性格を考えるのであれば根に持つようなことはないだろうが、

確実に周囲の全員からどうして求婚を断ったのかと問い詰められるのが目に見えている。

冒険者になりたいなどと口にすれば猛反対されるのはわかっているからこそ、ベルントさん以外には打ち明けなかったのだ。

今晩は皆騒ぐのに忙しいが、明日以降のことを考えると次に彼が村に来るまで誤魔化しきれる自信はない。

今夜は休んで、明日村を経つ彼の馬車に便乗させてもらうことにしよう。

今からでは馬車を出してくれないのはわかっているし、朝になれば夜通し騒いだ村人たちが寝静まるから丁度いい。

とりあえず、このことを彼に伝えに行こう。


ベッドの下に荷物を戻し、念のため家の裏に面した窓から外に出て家々や木々の影を縫い見慣れた馬車に近寄る。

家の影から小石をそっと投げると、馬車のそばで楽しそうに祭りの様子を眺めていたベルントさんがこちらを向き、

ちょいちょいと手招きすれば、呆れたような顔をしながらもこちらに来てくれた。


「おいおい、どうした?こんなこそこそと……」

「しっ、静かにお願いします、村の人たちには気づかれたくないので」


もう少し影に入るよう促し、小声で現在の状況を説明する。


「――というわけで、旅立つなら今しかないんですよ」

「……はぁ、それはわからなくもないけどよ、流石に今から馬車を出すのは無理だぞ」

「わかってます、今夜はこれから休んで、明日の早朝また来ますから」

「……ったく、しょーがねぇなぁ、寝坊したら置いてくからな?」


私の頭を撫でながら、ベルントさんはそう言って笑う。数年前とよく似た言葉に、思わず笑みがこぼれた。


行きと同じように人目を忍んで家に帰る。

……このベッドで眠るのも今日が最後かと思うと、なんだか名残惜しいような気もする。

前世で使っていたものに比べれば随分と硬いベッドに潜り込み、明日のことを考えながら目を閉じた。



 

読んでいて違和感を感じる箇所などありましたらご指摘いただけると助かります。

後々説明する要素もございますのでご容赦ください。


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