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大きな事件、小さな一歩

旅立ちの準備を始めてからしばらくの時が立ち――私は12歳になった。

女性の方が成長期が早いというのはこの世界でも同じだったようで、

すくすくと成長した今は同年代の子供たちの中でも一番背が高くなった。

少々伸びすぎた気がしないでもないが、冒険者を目指している以上あって困るものでもないだろう。

父に似た少し癖のある栗色の髪も随分伸びて、母に似た菫色の瞳と顔立ちもあり、黙っていれば美少女と言えなくもないだろう。

……少しばかり目が死んでいるのは残念だが、中身が私である以上仕方ない。


セージとトレニアも随分大きくなって、ねーちゃんねーちゃん!と私の後ろを付いて回るのは雛鳥のようで大変可愛らしいのだが、

私の遊びという名の鍛錬に付き合わせた場合大怪我では済まない可能性があるのでいつも心を鬼にして振り切っている。

許せ、私には夢があるんだ……。


計画は今のところ実に順調だ。

まず勉強についてだが……正直、既に学ぶことがなくなってしまった。

知らない文字を覚えるのは難しくもあったが、前世でやった暗号解読や言語解読ゲームの知識が役に立ったのか、

今では村長と変わらないレベルで読み書きが出来るようになった。

計算に関しては四則演算が出来れば問題ないというレベルだったこともあって特に問題はなく、

周囲の大人の誉め言葉を信じるのであれば普通の子供よりも随分早く習得できたようだ。

これだけ出来れば何もわからずカモにされるということはないだろう……と思いたい。


次に武力に関して……女性としてはどうなのかと思わなくもないが、このところチャンバラごっこでは負けなしである。

父との鍛錬の他、数年前から毎日続けている素振りが功を奏したのだろうか。

冒険者になるにはまだ心許ないが、そこは旅立つまでに腕を上げればいいだけだ。

次の目標は父から一本取ることなのだが、流石に大人の男性にはまだ適わない、日々是精進、頑張ろう。

とはいえ子供たちの中では一番強いことには変わりなく、家の手伝いなどの合間に集まっては森へ入り、

探検ごっこがてら野生動物相手に集団戦闘の訓練を重ねている。

集団戦闘などと格好つけて言ってはみたが、実態としては足の速い子が獲物を追い立てて私やアンディ――狩人の家の跡取り息子だ――

が仕留めるというなんちゃって追い込み漁のようなものである。

最初は生き物を殺すつもりで攻撃することに躊躇いもあったが、慣れてしまった今では動く目標に攻撃を当てる練習という感覚になっている。

嫌な慣れだとは思うが、田舎ではこれくらい出来ないと生きていけないし冒険者になれば猶更だろう。

毎回獲物に出会えるとは限らないのだが、運良く兎などを仕留められれば夕飯が豪勢になることもあって大人たちも文句は言わないし、

お転婆すぎることに困っている様子だった母から狩りの効率が上がるようにと鉄の短剣を貰えたのは思わぬ収穫だった。

私が家事に励むよりも森に入った方が結果的に生活の役に立つと判断してもらえたらしい。

――ちなみにティム少年は探検のメンバーには入っていない、この先の戦いにはついてこられないだろうから置いてきた。

というのは冗談として、彼は優しい性格が災いしてか争いごとが得意でなく、ぶっちゃけていえばチャンバラごっこでも一番弱い。

足手まといになることが自分でもわかっているのか、無理についてこようとはしないがどこか寂しそうだったので、

森で見つけた木の実やら花やらをお土産に持っていくようにしている。

勉強するための足掛かりにしたようで罪悪感があったのもそうだが、同じ遊びに加われない彼も友人であることに変わりはない。

土産を手に訪ねるたび白い頬を赤くして嬉しそうに笑う姿を見ると持ち帰った甲斐があるというものだ。


運が良いのか悪いのか、短剣を貰ってから少し後にちょっとした事件が発生した。

いつものように皆で森に入って少しした頃、普段であれば出てこないはずのところに魔物が現れたのだ。

村長の家にあった魔物図鑑によると、森狼と呼ばれるその魔物は緑がかった毛皮を持つ狼のような姿を持つその魔物は

本来群れを作る性質があり、本来であれば太刀打ちできずに2度目の生が終わるはずだったのだが……。

群れからはぐれたのかはたまた追い出されたのか、その場にいるのは1匹だけのようだった。

とはいえ危険な相手であることには変わりないし、走ったところで逃げきれるものでもない。

結果私たちは決死の覚悟で森狼に挑むことになった。

こちらを殺す気で襲ってくる魔物相手では逃げていく動物とは全く違う対応が必要になる、この場で作戦を組み立てるしかない。

作戦と言っても単純なもので、短剣を持っている私が直接相手をし、アンディは弓で攻撃、

他の子たちには石などを拾って投げつけてくれるよう頼んだ。

1対1では勝ち目など無かっただろうが、目の前の私に攻撃しようとすれば矢や石つぶてが飛んできて、

飛び道具に気を取られれば私に切りつけられるという状況に追い込まれた森狼は徐々に動きを鈍らせ、

最後の抵抗とばかりに腕に噛みつかれはしたものの、お返しに首を切り裂いたことで決着がついた。

子供たちが森狼の死体を引きずって帰ってきたことで村内は大騒ぎになったし、

私の腕に残った噛み傷を見た母と弟妹には泣かれ、父には死ぬほど怒られた。

無茶をした自覚はあるが、既に物理的に痛い目は見ているのだし、あぁでもしなければ何人か犠牲が出ていたであろうことを考えれば

褒められてもいいはずだと思う、不服だ。

そんなことを思っていたのだが、後日になってから守り通すことが出来た子供たちの親からは大層感謝されたし、

アンディの親御さんからは森狼の牙を加工した首飾りと加工を済ませた革をプレゼントされたのでよしとした。


その後、森狼の残党が居ないかどうか自警団の大人たちによって徹底的に山狩りならぬ森狩りが行われたそうだ。

何故伝聞系なのかというと、両親から腕の傷が治るまで絶対安静を言い渡され、しばらく家から出られなかったからだ。

近所に住む医術の心得のあるおばあさんに診てもらったところ、幸いにも後遺症は残らないだろうとのことだったが、

どうしても傷跡は残ってしまうとのことだった。

冒険者(志望)たるもの古傷の1つや2つ、勲章のようなものだろう、生き残れたのだからそれでいい。


傷が大方塞がってようやく外出が許された頃、1ヵ月ぶりにベルントさんが村へとやってきたので、

いつものように話を聞く前に私の武勇伝を聞いてもらった。

傷跡と牙の首飾り、森狼の革を見せ、身振り手振りも加えて話し終わると、

「嬢ちゃんはお転婆だなぁ……そんなんじゃお嫁に行けなくなっちまうぜ?」

なんて言いつつ苦笑して頭を撫でてくれた。

切り出すなら今だろうと思い、私はそっと声を潜め、実は将来冒険者になりたいのだと打ち明けた。

すると彼は目を丸くして、なるほどなぁ、と納得した様子で頷いた。

「嬢ちゃんは昔っからチャンバラごっこだの、殆どのガキが嫌がりそうな勉強だのも進んでやってたもんなぁ。

 変わった子だとは思ってたが、冒険者になりたかったのか」

実際に戦えることを証明し、読み書きが問題なく出来ることも知っていたためか頭ごなしに否定されることはなかった。

「だけどなぁ、この村からギルドのある町までは遠いぞ?1人で向かうには厳しいと思うが……」

だから貴方に打ち明けたのだ、今すぐとは言わないが、私がもっと大人になったら町まで乗せていってほしいと頼むと、

「……ったく、しょーがねぇなぁ、高くつくぞ?」

と笑って了承してくれた。

出世払いで!と私が笑うと、そんな言葉どこで覚えたんだ、と軽く小突かれてしまったが、

夢を叶えるための最大の協力者が得られたことで、私の心は軽かった。



 

読んでいて違和感を感じる箇所などありましたらご指摘いただけると助かります。

後々説明する要素もございますのでご容赦ください。


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