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007 先輩の教え

「どうして売れないか分からないのかい? 物はよくても商売のことは何も分かっちゃいないんだなぁ」


 おじさんの口調は優しいものだった。

 喩えるなら孫の相手をする祖父母のようなトーンだ。


「ふぇぇ? なんで売れなかったの?」


 情けない声を出して涙目で尋ねる。


「答えは簡単さ。必要ないんだよ、この町の人間には。イノシシの革で作った上等なグローブなんて」


「そうなの?」


「お店に群がっていた町民はもれなく高齢者だったろ? 今年38歳の俺ですらこの町では若造扱いだ。君に『おじさん』と呼ばれているけどね」


「たしかに……」


「で、君の商品はと言うと、高級な手袋ときた。それはどんな時に着ける? オシャレして高いディナーでも食べようか、なんて特別な時じゃないか?」


「うん」


 食い入るようにおじさんを見つめる。


「だがな、この町の人間は特別な時をそんな風には過ごさないんだ。そういう年頃じゃないからな。大切な時間は家でゆっくり過ごそうとするのさ。出かけたとしても顔馴染みの店主が営む料理屋くらいなものだ」


 仰る通りである。


「すると、君の手袋を買ったところで着ける機会がない。いわば宝の持ち腐れってやつだ。だから『安い』や『価格破壊』と分かっていても、『買おう』とはならない」


「そういうこと……!」


 おじさんは話し終わると、ニヤリと笑った。


「てなわけで、この手袋は全部俺が買おう!」


「え?」


「だって1組10万なんだろ? 王都で売りゃ20万はくだらねぇよ。出店費用はここの20倍近く掛かるが余裕でペイできる。買わない手はないってなもんよ」


「転売する気!?」


 おじさんは迷うことなく「おう!」と頷いた。


「君は希望通りの価格で全て売れてニッコリ、俺は君から買った物を転売して差額で儲けてニッコリ、まさにウィンウィンの関係だ!」


「そうだけど、なんだか負けた気分……!」


「そりゃ商才の対決で俺が勝ったわけだしな!」


 おじさんは懐をまさぐると、手の平サイズの四角い機械を取り出した。


「支払うから〈スマホ〉を出してくれ」


「スマホ?」


 初めて聞く単語だ。


「なんだいスマホを知らないのか」


「うん、なにそれ?」


 ここルーベンス王国は、妙な技術をたくさん持つ国家として知られている。

 ただ、それらは他国どころか自国民にすらあまり活用されていない。

 スマホもそういった謎技術の一つなのだろう。


「スマホってのはこの国の商人だけが使える便利な道具さ。貴族じゃなくても預金口座が開設できるし、スマホを持っている者同士で電話やメールができるんだぜ」


「ええええ!」


「驚くのはまだ早いぞ。キャッシュレス決済つってな、お金を持ち歩かずにお金のやり取りができるんだ。しかも他の奴には悪用できない仕組みになっている。これがあれば盗賊に襲われてもお金を奪われずに済むってわけだ」


「おおー! 電話やメールが何か分からないけど、キャッシュレス決済はすごく便利そう!」


「便利だぜ。一度スマホを使うともう手放せないよ。だからこの国には俺たちみたいな商人が集まってくるわけだ」


「ほっへぇ」


「スマホは市民権のある商人なら誰でも無料で貰える。商人かどうかは直近1ヶ月以内に商取引をしたかどうかで判断されるから、ここで俺に手袋を売れば君も商人ということになる」


「おー! じゃああとは市民権があれば!」


「そう、役所でスマホを貰えるってわけだ。この国の商人は誰もがスマホを持っている。逆に言うとスマホの持っていない人間は商人として扱ってもらえないってことだ」


「勉強になりますおじさん!」


「がっはっは。ま、スマホを持っていないってことだから、今日は現金で支払うよ。役所からお金を下ろしてくるからちょっと待っていてくれ」


「うん!」


 おじさんは駆け足で役所に行き、金貨200枚の入った袋を持って戻ってきた。


「ほい、ちょうど200万だ。手袋は貰っていくよ」


「ありがとー! おじさん!」


「こういう取引はいくらでも歓迎だから、スマホを手に入れたら是非とも連絡してくれ。これが俺の連絡先だ」


 おじさんが名刺を渡してきた。

 名刺はレミントン王国の商人も使うので知っている。

 ただ、記載内容はおじさんのほうが多かった。

 名前だけでなく電話番号やメールアドレスが書いている。

 おじさんの名前はトムというようだ。


「トムさんだね! 覚えた! 次に会う時は名刺とスマホを用意しておくね!」


「はいよ! じゃ、またな“お嬢ちゃん”、イイ取引だったぜ!」


「だからお嬢ちゃんじゃ……いや、今日はお嬢ちゃんでいいよ! 許したげる! でも次は私のほうが上手に商売するから!」


「はっはっは! 未来の大商人トム様を追い抜いてみろってんだ!」


 トムさんは屋台を畳むと、「じゃあなー」と馬車で去っていった。


「よーし、私もスマホを貰って一人前の商人を目指すぞー!」


 トムさんより少し遅れて、私も役所に向かった。

 屋台を返し、それから市民権の申請を行う。

 市民権は国籍と違い、申請すれば他国の人間でも簡単に得られる。

 はずだったのに――。


「シャロンさん、あなたはレミントン王国から国外追放された身ですよね? 申し訳ございませんが、重罪の前科があるあなたに市民権をお与えすることはできません、規則ですので……」


 終わった。

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