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005 毛皮の加工

 皮や毛皮を加工して革にする作業を『(なめ)す』という。

 馴染みのない人間に説明する時は「防腐加工」と言えば伝わる。

 皮のままだと腐るので、革にして腐らないようにするわけだ。


 鞣す方法は色々ある。

 一般的なのは専用の薬品に浸ける方法だ。

 薬品にもこれまた色々あるが、有名なのはミョウバンだろう。

 水とミョウバン、それに塩などを足した液体に浸けるだけでいい。


 しかし、私の手元にミョウバンはない。

 ついでに塩もないので、残念ながらこの方法は使えない。

 だから別の方法で鞣すとしよう。


「これでよし!」


 川にやってきた私は、川辺で木製の燻製箱を作った。

 その名の通り燻製に使用するための細長い箱のこと。

 箱の下部で燻煙を起こし、上にセットした食材などを(いぶ)す仕組み。

 わざわざ箱にするのは煙を充満させるためだ。


「ではやっていきましょー!」


 まずは燻製箱が使えるか試そう。

 先ほど調達したイノシシの肉をスライスして箱に入れる。

 適当なスモークチップに煙をモクモクさせたら待つだけだ。


 その間に毛皮の処理をしておくことにした。

 近くに焚き火をこしらえ、その炎で慎重に毛皮を炙る。

 イノシシの毛はチクチクしていて邪魔なので燃やして除外だ。

 皮に付着している大量のマダニも一緒に焼き尽くす。


 言葉にすると簡単だが、実際に行うのは大変だ。

 毛皮をつるっぱげにした頃には肉の燻製も終わっていた。


「燻製箱のほうは問題ないね」


 燻製肉を食べたらいよいよ皮を鞣す。

 やることは先ほどの肉と同じで燻製箱に突っ込むだけ。

「とりあえず燻煙」とはよく言ったものだ。


 ちなみに、燻煙による鞣し法を〈燻煙鞣し〉と呼ぶ。

 そのままだ。


 ◇


 燻煙鞣しも終わり、肉と革を持ってポンポコに戻ってきた。

 その頃には日も暮れていて、私の体力も地の底を張っていた。

 早くせねばならない。


 まずは肉を売ることにした。

 害獣の肉を高値で買い取ると謳う肉屋へ行く。


「おお、これは良質な猪肉じゃないか!」


 店主は私の肉を見て大喜び。

 イノシシの肉は個体が大きいほど柔らかくて美味いそうだ。

 つまり私の肉は上の上、言うなれば特上である。

 ならばきっと20万ゴールドくらいにはなるだろう。


「5万だな」


「なんだってぃ!?」


「この肉、お嬢ちゃんの顔の良さでボーナスして5万だ」


 謎の顔面補正を含めても5万が限界だという。

 いくら私が隣国の元貴族令嬢でも足下を見られているのは分かる。

 ここはガツンと言ってやるしかない。


「それは流石に横暴……! 安すぎるのではございませんか! この鮮度にこの大きさ! さらには人気部位! 自分で言うのもなんだけど完璧な処理をしていますよ! これが5万? いやいや、50万でもおかしくない!」


 貴族仕込みの大演説。

 その結果――。


「言ってることはごもっともなんだが、お嬢ちゃんには信用がない。人の口に入る物は品質以上に信用が大事だ。信用がない人間が、しかもバナナの葉で包んで持ってきた肉にお金を出せというのはなかなか難しい。ただ、俺はこの道のプロだし、この肉が極上であることは分かっている。とはいえ、お嬢ちゃんに敬意を表し、あと可愛いことを考慮しても、やはり5万が限界だ」


「なるほど、たしかに、仰る通り」


 さすがは商人だ。

 よくもまぁペラペラと舌が回る。

 全くもって付け入る隙がないので5万で手を打った。


「ありがとーおじさん!」


「はいよ! またいい肉があったらよろしく頼むよ!」


 社会の厳しさと引き換えに金貨5枚を獲得した。

 死ぬ気で狩って5万とは、なかなかどうして割に合わない。


「この調子だと革も買い叩かれてしまうわね」


 肉はともかく革は妥協したくない。

 すぐに腐るものでもないし、自分で加工して販売しよう。

 そうすれば、少なくとも希望の半値にはなるはずだ。


 私は銭湯で汗を流すと、宿屋に戻って革細工を始めた。

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